賢者の知恵
2015年08月06日(木) 河尻亨一

五輪エンブレム、盗用疑惑にかき消されたデザインの真意

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Photo by gettyImages

五輪エンブレム、盗用ではない

亀倉雄策氏がご存命であれば、どのような感想を持たれるだろう? 「東京オリンピック・パラリンピック2020」のエンブレムに関する騒動を見ていて、そう思わずにはいられない。亀倉雄策氏とは言うまでもなく「TOKYO1964」のマークをデザインした巨匠である。

本日(8月5日)、エンブレムをデザインした佐野研二郎氏の会見があった。デザインや広告のクリエイティブを15年にわたって取材してきた私には、彼の主張は痛いほど理解できた。

先週ソーシャルメディアに、この件に関する個人的見解を書いたところ、賛否両論が寄せられた。デザインやクリエイティブに近い仕事をしている方々には賛同の意見が多く、それ以外の業界からは異論の方々も多かったように思う。世間との温度差を感じた。私個人としても非常に悩ましい問題だ。

多くの人が指摘するように、“見た目”は似ているようにも思える。が、決してパクリや盗用ではないと私は考える。佐野氏の会見でも話に出たように「アイデア→デザイン」にいたる道筋が明らかに違うからだ。そもそものお題と発想の道筋がまるで異なる。

細部に込められたデザインの真意

まず東京オリンピックのエンブレムは「T」をモチーフとしている。「Tokyo(場所)・Team(結束)・Tommorow(未来)」の「T」だ。そのデザインに3つのメッセージを持たせることで、東京という街(あるいは日本という国)の世界のスポーツ祭典にかける意気ごみを表現しようとしている。

このマークは固定されたひとつのビジュアルではなく、バラバラに分割できるようになっている。一定のルールのもと分割されたパーツを様々に組み合わせて、各種メディアに展開することができる。言うならばレゴブロックのような構造になっている。エンブレムの発表の際に、その展開例を示す映像も紹介されていた。

私の見方として、単体としてのマークというより展開パターンが魅力的に思えた。紙媒体・ウェブ・動画など多様なメディアに展開することで、スポーツの楽しさ、躍動感をフレキシブルに表現できるよう工夫されているのだ。

デジタル社会を前提とし、平面と映像の両方を駆け巡る現代的な“動くロゴマーク”。そこにこのオリンピックエンブレムの一番の新しさ、つまり“オリジナリティ”があると私は考えている。新しい技術の力を借りることで、1964年に不可能だったことが可能になった。オリンピックのエンブレム史上においても、ここまでのデザインの大胆さ、フレキシビリティは新しい試みだと言えるだろう。

くわえてこのエンブレムは、オリンピックとパラリンピックの両大会がかなり完璧に「対」になるようにデザインされている。オリンピックエンブレムの黒の部分を白に変えると、パラリンピックのエンブレムになる仕組みだ。異なるデザインでありながら、両大会を「=」なものとして統合する案ーーこれはコンペにエントリーした104名のデザイナーたちを悩ませた難題のひとつだと思える。

オリンピックのマークだけが完成度が高くてもコンペで認められない。エンブレムのデザイン案に関しては「ふたつでひとつ」という認識で受け取るのが正しいと思う。

つまり、今回のエンブレムの制作者には、「①東京(日本)から世界に発信するスポーツの祭典にふさわしいデザインになっているか?」「②21世紀の大会にふさわしい現代的な工夫があるか?(多様化するメディアでの自在な展開性)」「③オリンピックとパラリンピックを統合するアイコンになっているか?」の3つのお題が課せられていたと言えよう。

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