雑誌 企業・経営

15年連続「輸入車ブランド別販売台数No.1」フォルクスワーゲン、強さのヒミツ

フォルクスワーゲングループジャパン庄司茂社長に聞く

経営者は何が起きても自分の責任。イベントの日に台風が来て、売り上げが伸びなくとも自分のせいですから(笑)。

ドイツ語で「国民車」の意味を持つフォルクスワーゲン(以下「VW」)。その日本法人であるフォルクスワーゲングループジャパンの庄司茂社長(52歳)を取材した。15年連続で「輸入車ブランド別販売台数No.1」を達成し、7月には新型『パサート』を発表した同社。その好調の理由などを聞いた。

* * *

しょうじ・しげる/'63年、神奈川県生まれ。早稲田大学法学部卒業後、'85年に伊藤忠商事へ入社。自動車関連事業に携わり、'94年からマツダモーターハンガリー、'09年からスズキモーターロシアと、伊藤忠商事が出資する現地法人の社長を務め、'12年8月より現職

二面性

物事の二面性、裏と表について考えるのが好きです。例えば、何かいいことがあってもすぐ忘れるように心がけています。成功した時にも、運のような環境要因があって成功しているわけで、同じような環境は二度と巡ってきません。成功体験が頭にあると、それが足を引っ張ってしまう場合もある。自動車販売の仕事が好きなのも同じ理由です。

新車の発表のようなゴキゲンな仕事がある一方、高品質を実現する地道な取り組みがある。例えばVWの車は高速道路にある路面の継ぎ目などでも、ドライバーに起伏を伝える程度に揺れ、その後は一瞬で安定するんです。楽しいことだけって嘘くさいと思います。

違和感

小学校5年生の時に父が英国へ赴任し、中学校1年生まで、ロンドンで暮らしました。これが良くも悪くも、私のダイバーシティ(多様性)に関する考え方の基礎になりました。

例えばイタリアでは、食後のデザートの直前にサラダを食べます。でも、これに違和感を持つのは、日本の常識を身につけたあとだからです。小学生だと比較対象がないから「そんなものか」と受け入れるしかない。帰国後、大学卒業までは悩みました。英語には敬語がないため私は話せず、目上の方と関わる場面でたびたび「なぜお前はぞんざいな口をきくのか」と殴られたりしました。散々ですよ(笑)。でも「自分が当然と思っていることが当然ではない」という、ダイバーシティの感覚で乗り切ることができました。

速い! '97年3月に軽井沢で行われた「商社スキー大会」での勇姿。庄司氏はこの時、30代半ば

水の如し

経営者としては、臆病です。新卒で商社に勤め、31歳の時、ハンガリーで自動車を販売する社員35人の企業の社長になりました。そこで学んだのは「ほうれんそう(報告・連絡・相談)は社会人の基本だが、管理職が自分で聞きに行かなければ絶対なされない」ということ。

国を問わず、よくない話や「辞めたい」といった話は、水のように下にしか流れず、とりに行かなければ汲み取れない。

当時はベルリンの壁が崩れたばかりで新興企業が勃興しており、人材が育ってもすぐ引き抜かれてしまう。私は辞められるのが怖く、毎日「カゼは治った?」などと従業員と話すことが仕事でした。臆病にもなりますよ。経営者は何が起きても自分の責任。イベントの日に台風が来て、売り上げが伸びなくとも自分のせいですから(笑)。

脱ぎ捨てる

商社では、日本車の販売や部品調達などを担当し、多くの国で仕事しました。印象的なことも多かったですよ。

ロシアでは、お互いが合意を求めて会ったのに、条件を詰めきれずにいたら、「1年後にもう一度交渉しようか」と言われたことがありました。相手は「あなたの事情もわかったが、私にも事情がある。でも、1年経てば状況が変わっているかもしれない」と言う。いわば「合意できないことを合意した」ようなものでしたが、私は逆に、日本のビジネスは何でもすぐ解決しようとしすぎなのかな、と新たな視点を得ました。

あとで、昔の彼女に服を捨てられたことを思い出しました。彼女は「何でこんなダサい服ばかり!?」と、私の留守中に、服を全部捨ててしまったんです。でも、これを機に、服のセンスを変えることができ、今は「悪くなかったな」と思っています。実を言うと、これが私なりのダイバーシティで、人と付き合うには、自分の常識や感覚を一度捨てる必要があるのかな、とも思うのです。

発売 『Polo』発表時。「奥さんを説得して買う車でなく、奥さんにも選んでもらえる車」

社長として

社員によく言うのは「ディールキラー(取引などの妨げ)にはならないから、早めに相談してほしい」ということ。例えば、晩ごはんのレシピが事細かに提示され、実は食べたくなかったりしたら困るじゃないですか。それより「今日はハンバーグにする?」と大まかに聞かせてくれれば「付け合わせはニンジンがいい」などと、押えるべき点が話せます。すると、すぐ「これはやめておけ」と言う「ディールキラー」にならずにすむのです。

真剣

私生活では、こだわりを持って生きていますが、人には理解してもらえないかもしれません。例えば、空港の金属探知機で「ブー」と止められ再検査されるのが嫌で嫌で、靴も時計も金属の量が少なく、私を「ブー」から守ってくれる製品を揃えています。

先の冬には息子がスキーをやりたがったので、十数年ぶりにゲレンデへ行きました。久々にやると、何ともおもしろい。息子にも「真剣にレーサーを目指すなら道具を買ってやる」と話し、毎週末、修行するかのように滑っていました。自分でも、この性格が面倒くさい(笑)。

バドム!

とはいえ、趣味を聞かれたら「仕事」と答えます。VWの車には、いい意味で
のこだわりがあるんです。例えば、制動距離が短くてピタッと止まるんですよ。また、フロントドアを閉じてもリア(後部)のドアを閉じても “バドム!”といい音がします。リアは開閉の回数が少ないからとお金をかけず“パコッ”と鉄板の軽い音がするようなことはありません。しかも、運転が上手な方が奥さんを説得して買うような車でなく、どなたでも運転がしやすいんですよ。

火元

自動車は「熱で売るもの」です。孫子の兵法に「善く戦う者は、これを勢に求めて人に責めず」という言葉があります。人を動かすなら、能力だけでなく「勢い」も大事、といった意味です。自動車も同様に、営業が「絶対にお薦めです!」という情熱をお客様に伝え、初めて売れるものなのです。

しかもそんな勢いや情熱は伝播するものです。だから私は、情熱の火元になろうとしていますし、周囲には常に「火元になれる人間ばかりじゃないだろうけど、可燃物ではあってほしい」と伝えています。弊社の店舗でも、お客様にそんな情熱と、こだわりが伝われば、と思っています。

* * *

日本一社長を取材している記者の編集後記

庄司氏は、ご本人いわく「臆病者」だそうだ。思えば私が経営者の取材をしてきたここ20年ほどの間にも、「社長」のあり方は大きく変わり「臆病」タイプが増えたと感じる。90年代まではトップダウン型が多かった。だが00年代以降は明らかに、フラットな組織をつくり、社員の自主性を重んじる企業が多い。なぜか。

簡単に言えば、ネットの登場などによって仕事にスピードが要求されるようになり、書類を社長に回覧するまでに時間が空しく過ぎるような仕事の形は通用しなくなってしまったのだ。だから、社員が自主的に動いてくれる環境かどうか、社長が常に気をつかっている。だから社長は決裁者ではなく、情熱の火付け役なのだ。「社長像」も時代によって移り変わるものなのだろう。(取材日:6月15日)

(取材・文/夏目幸明)
『週刊現代』2015年8月8日号より


 ★ 読みやすい会員専用のレイアウト
 ★ 会員だけが読める特別記事やコンテンツ
 ★ セミナーやイベントへのご招待・優待サービス
 ★ アーカイブ記事が読み放題
 ★ 印刷してじっくりよめる最適なレイアウト・・・などさまざまな会員特典あり

▼お申込みはこちら
 http://gendai.ismedia.jp/list/premium

この続きは、プレミアム会員になるとご覧いただけます。
現代ビジネスプレミアム会員になれば、
過去の記事がすべて読み放題!
無料1ヶ月お試しキャンペーン実施中
すでに会員の方はこちら