「1人ができるなら、全人類73億人ができるんだ」〜「個」の力を見つめ、社会を変える最高のCM
カンヌライオンズ2015レポート【2】
アイス・バケツ・チャレンジの創設者たち(表彰式にて)

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文・石井うさぎ(博報堂クリエイティブディレクター)

病気を予防する「優しい言葉」を作る

「ヘルス&ウェルネス部門」でグランプリとなった作品も、ローカルな社会問題の解決を目指しながら、やはり世界でリスペクトされる普遍的な価値観を打ち出したものだ。P&Gのフェミニンケアブランド「オールウェイズ」のキャンペーン「インティメット・ワーズ」(Intimate Words)である。

メキシコで先住民が多く住むオアハカ市郊外では、毎年5000人もの女性が子宮頸がんで亡くなっている。人々が話すサポテク語には、「卵巣」「卵管」「子宮」「膣」といった女性生殖器を指す言葉が存在しないため、痛みや症状が出ても医師に具体的に説明できず、「お腹が痛いのです」と訴えるくらいしかできなかった。

そのため、がんなどの病気にかかっても早期発見が難しく、誤診も少なくなかった。各部位の詳細な呼び名を決めようというアイディアはあったものの、タブー視されて実現しなかったという。

そこでオールウェイズは社会学者や言語学者、医師、そして現地の人々を集め、生殖器を細かく表現する言葉を作り出していった。それも、わかりやすく、優しく、口にしやすい表現を目指した。

その結果、子宮を「赤ちゃんの家」、子宮頸部を「赤ちゃんの家のドア」、卵子を「女性の種」、卵巣を「女性の種が生まれるところ」、膣を「カップルが出会う場所」とそれぞれ呼ぶことになった。

さらに各地で女性の住民たちを集めて勉強会を開き、人体の図を見せながら新しい呼称を教え、一方でそれらを一冊の本に編集して、母親が娘に読んで聞かせられるようにした。その書名になったのが、「Intimate Word」(親しみやすい言葉)だ。

   Always “Intimate Words”

「intimate」という言葉には「親しみやすい」だけでなく、「心から優しく寄り添う」というニュアンスもあり、また、女性器を「intimate part」と呼ぶこととも重ねて、言葉の指す方向性を明確にしようという意図も感じられる。短いながら深いタイトルだと思う。

私はたまたま授賞式のパーティでこの作品のクリエイターに会ったので、出来上がるまでのいきさつを聞いたところ、彼は「メキシコにそういう地域があることを知り、何とか女性たちを助けたいと思って、オールウェイズに対してこちらから自主的に(今回のキャンペーンを打たないかと提案する)プレゼンをして、2年がかりで実現したんだよ」と嬉しそうに語っていた。

メキシコだけでなく、世界各地の、医療知識が十分に共有されていない場所で同じようなムーブメントが起こることを、心から願わずにはいられない。