地方発
ニッポンを元気にする「小さな会社」

このまま負け続けたら、国がなくなる

 オバマ大統領夫人によって一躍その存在が世間に知られるようになった小さな紡績糸メーカーが日本にある。山形県寒河江市にある佐藤繊維。従業員100名の会社だが、昨年1月のオバマ大統領の就任式でミシェル夫人が着ていた高級ブランド製カーディガンに使われていたニット糸が同社の製品であった。

 なぜ地方の小企業が手がけるニット糸が、世界的ブランドの認めるところとなったのか。

 佐藤繊維は、現社長の佐藤正樹氏の曾祖父が1932年に設立した会社で、佐藤氏が社長に就任したときは、下請けで安価な糸ばかりを手がけていた。

「このままでは将来はないと思ったんです。そこで、うちでしか作れない製品を目指すことにした。それしか生きる道はなかったというのが本当のところです」(佐藤社長)

 こうして製品化にこぎつけたのが、南アフリカ産の希少なモヘアを原料にした細い特殊な糸だった。

 従来、世界で最も細いモヘア糸は1gで20m。それを佐藤繊維は1g52mという極細のモヘア糸の製品化に成功したのだ。世界的なブランドがこれに目をつけ、特殊なニット糸によって、これまでにない光沢と繊細な風合いをもったカーディガンが生まれることになった。

 佐藤繊維は9年前から、紡績のみならず、オリジナルのニットブランドをニューヨークで展開している。

「かつては、いいものを安く作ればいいと考えていましたが、今はそれだけでは駄目だと思っています。いいものを作って、お客さんに喜んで買っていただくためには、自社ブランドの価値を上げる努力をしなければいけません」(佐藤社長)

 その結果、同社のニット部門はこの10年間年率5%程度で成長を続け、今年も過去最高の売り上げになる見通しだ。

 沈みゆく日本経済と大企業。一方で卓越した技術力を背景に、海外で活躍する中小企業はたくさんある。

 広島県安芸郡熊野町。周囲を山に囲まれたこの小さな町は、筆の産地として有名だ。伝統産業といっても、現代社会に筆の需要など高が知れている。だが、意外にも産地は近年、活況を呈しているという。

 地場産業を救ったのは、化粧筆への転身だった。熊野町で作られる高級化粧筆は、いまや国内はもちろんアジア、欧米、さらにはハリウッドの女優にも愛用されているのである。

 この町で月産50万本の化粧筆を生産している白鳳堂は、このところ業績好調。今期の売上高も前年比21%増を見込んでいる。同社の髙本和男社長によると、

「やはりコストがかかっても、いいものを作っているから売り上げが伸びていると思っています。安い中国製品に対抗して、より安い製品を目指す業者もありますが、これは逆です。いったん価格競争を始めると、さらに安いライバルが現れたときに太刀打ちできなくなってしまいます」

 筆づくりは機械化が難しく、いまも職人の手仕事によるところが大きい。高級化粧筆ならばこそ、伝統製法を守ることが大切だというのだ。

「つい売り上げを確保したいという誘惑にかられますが、それは絶対に駄目です。利益優先に走ってしまうと、品質維持は難しくなる。一度、落ちた技術を再び元に戻すのは容易ではありません」(髙本社長)

死に物狂いになれば

 ところで、日本の中小企業が得意とする技術の一つに金型(かながた)製作があるが、この分野で優れた実績をもつ三重県四日市市の伊藤製作所は、もう10年以上前に海外進出を果たしている。

 進出先はフィリピン。英語が通じ、大手企業でなくとも優秀な技術者を採用しやすいというのが、フィリピンに目をつけた理由だ。

「日本の製造業は、これまでつねに受注を抱えるという恵まれた環境に長く置かれたために、伝書鳩のように自分でを探すわざをなくしてしまったんです。しかし、これからはド鳩となって自分でを確保しなければなりません。そのために、優れたモノづくりの技術を武器に海外に打って出るべきです」

 同社代表取締役の伊藤澄夫氏はそう語る。

 中小企業の発展を約束するのは技術力ばかりではない。新しい発想ひとつで町工場が飛躍することもある。そのことを教えてくれるのが、東大阪市の川端ネジ製作所だ。

 もともと工業用ミシン用のネジを作っていた会社だが、いまや「奇跡の町工場」と呼ぶにふさわしいほどの注目を集める。同社が手がけているのは、ネジの頭に変わったデザインや色をつけた「アートネジ」と呼ばれる製品。20年ほど前から作りはじめ、経済産業省のグッドデザイン賞に輝き、インテリア製品などで需要を広げていった。

 それにしても、なぜこんなものを作ろうと思ったのか。生みの親である川端謙二社長によると、
「ネジがなければ自動車も家電もできないのに、だれも注目してくれない。主役は無理でも、せめて名脇役として注目させたい。そう考えて考案したのがアートネジでした」
  従来のネジの需要は大きく落ち込んでいるが、アートネジは小口注文が中心ながら、受注は順調に増え続けているという。

「100年に一度の大不況のなか、なんとか会社を維持できているのは、アートネジがあったからだと思っています」(川端社長)

 もう一社、浜松市にあるトリンクは、静電気やホコリを除去する除電器のメーカー。精密機器にとって静電気やホコリは大敵だが、同社の除電器は、国内外の大手企業から高く評価されている。

 従来、静電気除去には加湿方式やエアガン方式が用いられていたが、この会社の技術は、空間にイオンを放射して、工場全体の静電気を一気に取り除くというものだ。そんな同社の技術に最初に注目したのはトヨタだった。売り込みに行っても、過去の実績がないことを理由に門前払いする大企業ばかりだったが、トヨタだけが、
「過去にあるものはすべて試している。今までにないものなら試す」
  と、工場で製品を実験導入してくれたのだ。結果は上々で、ラインでの正式採用が決まった。

 精密工業化が生んだ一種のニッチビジネスだが、同社の高柳真社長は、成功の原因をこう分析する。

「じつは中小企業ほど潰れにくいんです。仮に売上高1兆円の大企業が新規事業を始めるとすれば、1000億円規模の市場に参入しなければなりませんが、そんなものはまずありません。しかし売上高1億円の企業なら、1000万円の市場でいい。これは少し探せばいくらでもあります」

 中小企業の強みについては、政策研究大学院大学の橋本久義教授もこう話す。

「日本の中小企業は危機的状況だといわれますが、じつは工業生産指数は徐々に回復しているんです。なぜかというと、別の仕事を死に物狂いで探してくるからで、ここに中小企業の強さがあります。やはり中小企業が日本のモノづくりのベースにある宝であることに変わりはありません」

 日本経済が再び立ち上がるとしたら、地方の中小企業からかもしれない。その兆しは見えつつある。

この続きは、プレミアム会員になるとご覧いただけます。
現代ビジネスプレミアム会員になれば、
過去の記事がすべて読み放題!
無料1ヶ月お試しキャンペーン実施中
すでに会員の方はこちら