クルーグマン「最低賃金を引き上げよ!」 労働市場は他の市場と違う。常識を覆した経済学の”知的革命”The NewYork Timesより

2015年08月04日(火) ポール・クルーグマン

ポール・クルーグマンThe New York Times

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カードとクルーガーによる労働市場の実験

およそ20年以上前に、経済学者のデービッド・カードとアラン・クルーガーは、個々の州が最低賃金を引き上げた際、それが実質的に労働市場の実験となると気が付いた。さらによいことに実験によって自然とその対照群がわかる。つまり、最低賃金の引き上げをしない近隣の州が対象群となるわけだ。

カードとクルーガーは、ニュージャージー州が最低賃金を引き上げ、その近隣のペンシルバニア州で引き上げなかった後で、ファストフード業界で見られた状況を調査するという形で、この知見を実践した。ちなみに、ファストフード業界は最低賃金の影響が最も顕著に出る業界である。

カードとクルーガーの研究が行われる以前は、私も含めほとんどの経済学者が、最低賃金を引き上げれば、明らかに雇用にマイナスの効果がもたらされると考えていた。

しかし研究の結果、効果があるとすれば、それはプラスの効果であることが判明した。この研究結果は、以降、多くの事例から得たデータを使って確認されてきた。最低賃金の引き上げで職が失われるという証拠は、一切見られなかったのだ。少なくとも元の金額が今現在のアメリカくらいに低いレベルの賃金である場合にはそう言える。

なぜ、そんなことがあり得るのか?――この問いにいくつかの答えはあるが、おそらく最も重要な点は、労働市場は小麦などそれ以外の市場とは異なるということだ。なぜなら、労働者は人間だからだ。

人間だから、より多くの賃金を支払えば、モラルの向上、離職率の低下、生産性の上昇など、雇用主にとってさえも重要なメリットがもたらされる。これらの利点により、労働コストの増大が生む直接的な影響が相殺されるため、最低賃金を引き上げたことで必ずしも職を失うことにならないのだ。

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