コラムニスト・石原壮一郎さんが選ぶ「わが人生最高の10冊」
赤裸々に、滑稽に。業の深さがにじみ出る

コラムニストの原点となった本

「大人」をテーマにかれこれもう20年物書きをやらせていただいておりますが、「コラムニストの原点」ということで選ばせていただきました。

第1位は山本夏彦さん。私なんかが影響を受けたと申し上げるのもおこがましいのですが、愛読していたのは「QA」という月刊誌の編集者をしていた20代後半です。

私自身は、他人を叱るどころか注意さえもできない人間ですが、山本さんはハッキリ直言される人で、しかも多くの読者が「当然」と考えていることを、見事にひっくり返すことをやられてきた。つまりコラムの真髄です。

如何に人は、流されて生きているか。ヘソというものは曲げるものだということを教わりました。

山本さんの本はどれもオススメですが、『つかぬことを言う』はちょうど手許にあったのであげてみました。なかでも「原爆許すまじ」というコラム。毎年8月になると、恒例のことを言うのをやめたらどうか。かわりに、あの日の写真を米国、いや世界中の空からバラ撒けばいい。凄惨な現実を目にしてもまだ原爆の恐ろしさを悟らないのであれば、あきらめるしかないという。山本さんならではの直球です。

疑うことをやめて、いつしか惰性になっている。それをよしとしないのが山本さんなんですね。

次の『金魂巻』。若い編集者に話すと、「キンコンカン、何ですか?」と聞き返されますが、初版が1984年、私が学生の頃の大ベストセラーで、女子アナから主婦までの三十余りの「職種」を、(金持ち)と(ビンボー)に二分した図解本です。

「一億総中流社会」といわれながらも、世の中は「絶対的な階層社会」になっている現実を、服装から推定年収にいたるまで細かく赤裸々に可視化した快著ですね。

たとえば「フリーライター」の項目。2枚のイラストを見比べると、同じ片手を上げる所作も、(金持ち)のライターはタクシーを呼び止めるためで、(ビンボー)はつり革をつかんでいる。酒場で「だから日本はだめなんだ」と魚肉ソーセージをつまみにクダをまくのが(金持ち)。(金持ち)は赤坂プリンスのバーで、やった女を自慢しあう。どう足掻いても這い上がれないことを知らしめてくれます(笑)。

というと、貧乏人をバカにしているように思われがちですが、「(金持ち)なりの充実感」もあり、(金持ち)の軽薄さを嘲笑しているんですよね。

この際だから告白します。私がオバタカズユキさんと作った『会社図鑑!』の業界ごとにカリカチュアした図解と短評を駆使した手法、じつはこの本からアイデアを頂戴させてもらっています。