富裕層と権力者の欲望を満たす裏マーケット。100万人の娼婦がいた「性都」の深い闇
富坂聰『中国 狂乱の「歓楽街」』/評者:鈴木智彦(ライター)
[photo] Getty Images

性都とは、つまりセックスの都である。

語感から連想するのはフリーセックスやLGBTでないだろう。事実、性の都と呼ばれた中国・東莞は世界一の売春都市だった。香港や深圳近く、マカオとストレートに繋がるこの都市には、全盛期、高級コールガールから末端の娼婦まで、ピンからキリを合わせて100万人の売春婦が蠢いていた。

カラオケボックス式のナイトクラブ(KTV)元経営者はこう豪語する。

「どんなサービスでもできますよ。しかし『お値段もいただきますよ』というのが東莞のスタイルだったんだ。世界の金持ちたちが集い、世界一の遊びを満喫する。それが東莞という街だったんだよ」

顧客第一の徹底した性サービスは、のちに東莞スタンダード、東莞モデル、東莞ISOなどと評されるほどだった。売春が違法な中国で、東莞は性産業特区になったのだ。

本書のテーマは性都の潜入ルポではない。2014年2月、これまでにない大規模な掃黄(黄色は日本のピンク産業に相当)により、パラダイスは突然に終焉を迎える。中国の公安は「100万人の娼婦が暮らしていた街をわずか36時間で滅ぼしてしまった」のだ。

中国取材のエキスパートは抜け殻となった性都を訪れ、黄ばんだ痕跡を拾う。大金をつぎ込んで美貌を手にし、豪勢をブログでさらけ出す愛人やそのパトロンを追いかけ、大国の裏に広がる性事情をめくって見せる。

広がる格差は富裕層相手の母乳ビジネスをも生み、権力者が求める野味(野生動物料理)市場には、密猟されたジャイアントパンダさえ流通するようになった。

「国家として中国自身がこれを容認していることはありません。(中略)貧困層の人々が、自分が生きていくために動物を獲ったり売買したりすることを躊躇うことなど絶無でしょう」

地方では若い女性の遺体さえ死者の花嫁として売買されるという。中国の裏マーケットで買えないのは、もはや不老不死だけだ。

すずき・ともひこ/'66年生まれ。実話誌編集長を経てフリー。『我が一家全員死刑』『ヤクザと原発 福島第一潜入記』他

中国 狂乱の「歓楽街」
著者:富坂 聰 KADOKAWA:1200円
とみさか・さとし/'64年生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。『中国 無秩序の末路』『中国人民解放軍の内幕』他多数

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「週刊現代」2015年8月8日号より


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