忘れきる、捨てきる、許しきる。苦行を重ねた大阿闍梨が説く、自由になるための心構え
塩沼亮潤さんインタビュー【第3回】
慎泰俊さんと塩沼亮潤さん

慎泰俊さんがプロフェッショナルたちの仕事の流儀に迫る本連載、今回は慈眼寺住職の塩沼亮潤大阿闍梨の登場です。往復48キロの山道を1000日間歩き続ける修行「大峰千日回峰行」を満行した塩沼亮潤さん。修行を通じて、自己を顧みる心と感謝の念を得たと言います。そして、その学びを普段の生活に生かしていくためには、情熱を持って継続していくことが大事だと説きます。第3回は、塩沼さんが人生において大事にされていること、これからの展望についてお話を聞きました。(写真・齊藤優作/構成・徳瑠里香)

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自分の身体と心をコントロールする力

慎: 塩沼さんが毎日情熱を持てるのは、継続していることがあるからだと思うのですが、習慣として行っていることはありますか?たとえば私は、20代の頃は毎日、自分が大切にしたい10箇条をカードに書き留めていました。書くことを通じて、覚えていこうと。

塩沼: 仕事とプライベートの区別がないので、休みがないということは、それが毎日の習慣といえば習慣ですね。強いていえば、毎日4キロは必ず走っています。身体が衰えてくると仕事にも影響がでてくるので、体力の作りのためですね。

慎: 日々の生活が習慣ということになると、起きる時間は同じなのですか? たとえば、慈眼寺にいるときと、東京や海外にいるときと時間の過ごし方が変わるなかで、心が乱れるようなことはないのでしょうか?

塩沼: 起きる時間は基本的に毎日同じですね。海外に行っても時差ぼけを経験したことがないんです。地球は丸いわけですから、今自分がいる場所は気にならないですね。飛行機に乗る時は自分に暗示をかけるんです。時計をこれから向かう現地の時間に合わせて、日本は15時だけど、行き先は12時だから、今は12時だ、と。自分で身体をコントロールできちゃうんですね。

どういう状況にあっても心は乱れなくなりましたね。いつもマイナスなことは一切考えていないですから。人の心の真ん中には針があると思うんです。それがマイナスに振れるか、プラスに振れるか。どんなに辛いことがあってもその針がマイナスに振れることは滅多にないですね。

千日回峰行のときは、精神的にも身体的にも苦を受けるんですが、辛くはなかったんです。行きたくないな、と思う日が1日もありませんでした。どんな苦を受けても、針がマイナスに振れることがなかったんです。だからどんなに辛くても苦しくても、心がぶれなければ落ち込まないし、楽しいんですね。

慎: 針が振れなければ、苦しみを感じることはない。塩沼さんでも以前はその針がマイナスに振れることがあったんですか?

塩沼: いったん修行に入れば、全くありませんが、昔はね、振れまくっていたときもありましたね。

慎: よかったです。安心しました。何歳くらいからその針が振れなくなったんですか?

塩沼: 35~6歳の頃から変わってきたように思いますね。山での行を終えて、里でお寺を建てるまではもう本当に嵐のような日々の連続でしたから。でも腹をくくって、不平不満を言わずに、日々精一杯、なすべきことをさせていただく。そんな日々を送るようになってからは心の針も振れないです。

慎: そういう日々の積み重ねで針が振れなくなったんですか? それとも35~6歳のときに何かあったのでしょうか?

塩沼: 私が変わった要因として、当時1人苦手な人がいたのですが、そのときに自分に大きな懐があったらと深く反省したことがあったと思います。誰かを嫌ったり、誰かのせいにしたりすることがなくなって、囚われなくなったら人は自由になります。真理を求めて悟りを開きたいという気持ちがあったとしても、なにか小さな一つのことであっても自分の心が囚われていたら自由にはなれません。そのときは深く反省をして、自分の心を整理するんです。そのために人生の三種の神器があります。

慎: なんですか?

塩沼: 忘れきる、捨てきる、許しきる。これができたときには精神的な自由を得て、悟りに近づくでしょう。

慎: 言うは易し行うは難し、ですね。相当大変な経験を乗り越えないと、本当の意味で理解することはないんだろうな、と思います。

塩沼: みなさん「それができないときはどうすればいいですか?」とおっしゃるんですが、こればかりは自分で経験を重ねていくしかないですね。謙虚に素直に、情熱を持って日々を重ねていく。年齢と経験と今の心によるものもあるかもしれませんね。

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