読書人の雑誌『本』
サイエンスライターの存在意義
〈科学的な厳密さ〉と〈わかりやすさ〉のあいだ
〔PHOTO〕gettyimages

サイエンスライターが書く

(文・保坂直紀)

サイエンスライターという仕事

つくづくこれは変わった仕事なのだと思う。「お仕事は何ですか」と聞かれても、つい口ごもって即答できない。きっとまた、わかってもらえないんだろうなあ。

「えー、あのー、海の科学について書いたりしています……」

2年前までは新聞記者だった。「科学の話題を扱う科学部の記者です」。これは通りがいい。だが、いまはそうはいかない。相手の顔に「?」がいくつも並ぶ。なにしろ、名刺にある仕事の名前は「サイエンスライター」なのだ。

サイエンスライターとは、文字どおり、科学について書く人のことだ。今回、講談社ブルーバックスで『謎解き・津波と波浪の物理』を書かせていただいたのも、まさにこのサイエンスライターとしての仕事だ。

この本では、風で生まれる波と津波について書いた。東日本大震災の津波のような新しいできごとにも触れてはいるが、基本は、大学の教科書にでてくる波の物理学の話だ。

そんな科学の話なら、大学の専門家が書けばよいではないか。まことにごもっとも。だが、現実には、水面を伝わる波の物理を一般向けに書いた本はみあたらない。

なぜか。やってみてわかったのは、これは大学の教員にはとても書きにくい話だということだ。