『資本論』で展開されているマルクスの階級論について、わかりやすく説明。佐藤優・著『いま生きる階級論』

佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」Vol.064 読書ノートより

●佐藤優『いま生きる階級論』新潮社、2015年6月

昨年、新潮社から上梓した『いま生きる「資本論」』の続編である。『資本論』の結論部で展開されているマルクスの階級論について、わかりやすく説明した。まえがきを引用しておく。

<最近、格差に関する議論がブームになっている。その背景には、フランスの経済学者トマ・ピケティ氏が引き起こした旋風が関係している。

去年(2014年)12月に邦訳が刊行されたピケティ氏の『21世紀の資本』(みすず書房)は、日本でも13万部を超えるベストセラーになった。この本が難解だという話をときどき耳にするが、そんなことはないはずだ。

論理も明晰で、複雑な数式も使っておらず、山形浩生氏らの訳文も正確でわかりやすい。本文608頁という厚さにたじろかず、読み始めれば、最後まで読むことができる。

ピケティ氏は、比較的簡単な道具立てで、ビッグデータを処理し、過去200年の資本主義が格差を拡大する傾向にあること(ただし、二度の世界大戦期を除く)ことを示している。成熟した資本主義は、低成長が基調だ。従って、資本収益率(r)が産出と所得の成長率(g)を上回る、すなわちr>gが成立するようになる。そのため、資本主義は自動的に、持続不可能な格差を生み出すというのがピケティ氏の結論だ。

ピケティ氏は、経済学者として、事態を純粋に観察するだけでは不十分と考える。政治経済学者として、政治的に問題を解決することに強い関心がある。具体的には、国家が介入し、累進的な所得税、相続税に加え、資本税を徴収することが効果的と考える。経済のグローバル化で、ヒト、モノ、カネが自由に移動するようになったのに対応して、超国家的な徴税機関の創設も視野に入れるべきとピケティ氏は主張する。

この超国家的な徴税機関を視野に入れるという点を除けば、ピケティ氏の考え方は、構造的貧困を再分配によって解決するという昔からある修正資本主義の思想だ。日本では、河上肇(1879~1946年)の『貧乏物語』(1917年)がそれにあたる。この本の基になったのは、「大阪朝日新聞」(1916年9~12月)に連載で、社会に大きな衝撃を与えた。単行本は40万部以上売れたと言われている。まさにピケティ氏の『21世紀の資本』を彷彿させる。河上は、国家としては豊かである文明国における貧乏の問題を取りあげる。

<食費のほか、さらに被服費、住居費、燃料費及びその他の雑費を算出し、それをもって一人前の生活必要費の最低限となし、これを根拠として、貧乏線という一の線を描く。(中略)われわれはこの一線によって世間の人々を二類に分かち、かくてこの線以下に下れる者、言い換うればこの生活必要費の最小限に達するまでの所得をさえ有しておらざる者は、これを目して貧乏人となし、これに反しこの線以上に位しそれ以上の所得を有して居る者は、これを貧乏人にあらざる者とみなすのである>(河上肇『貧乏物語』岩波文庫、2008年、23~24頁)。

要するに、一生懸命に働いても、人並みの生活必要費を確保できないような貧困を河上は考察の対象にするのだ。ピケティが『21世紀の資本』で問題にしているのも、格差の拡大傾向が、絶対的な貧困、河上の言葉を用いるならば「貧乏線以下」の人々を大量に作り出していることだ。河上は、<世間にはいまだに一種の誤解があって「働かないと貧乏するぞという制度にしておかぬと、人間はなまけてしかたのないものである、それゆえ貧乏は人間をして働らかしむために必要だ」というような議論もあるが、今日の西洋における貧乏なるものは、決してそういう性質のものではなく、いくら働いても、貧乏は免れぬぞという「絶望的の貧乏」である。>(前掲書35頁)と強調する。

そして、このような構造的貧困を解消するためには、<社会組織の改造よりも人心の改造がいっそう根本的の仕事>(前掲書163頁)で、<富者の奢侈廃止をもって貧乏対策の第一策とし>、貧困者への再分配が行われれば、<社会組織は全然今日のままにしておいても、問題はすぐにも解決されてしまうのである。>(前掲書163~164頁)と結論づける。
ピケティ氏が分配の主体を国家(官僚)と考えるのに対して、河上は社会(自覚した富裕層)と考える。この点では、河上は国家にまったく幻想を持っていなかったと言えよう。資本主義体制を前提とする貧困対策を説いてる点をマルクス主義者から批判され、河上は『貧乏物語』を絶版にしまった。そして、マルクス主義に傾斜し、治安維持法違反で逮捕され、獄中で病死してしまった。

知識人として、河上の生き方は立派だった。しかし、資本家の良心にいくら訴えても、資本家として市場での競争で勝利し、生き残っていくためには、貧困者の再分配に自発的に提供できるカネなどほとんどないのである。これだから、合法的な暴力装置を持つ国家が徴税によって、再分配を行うというピケティ・モデルに収斂していく。ただし、国家は抽象的な存在ではなく、具体的な官僚によって担われている。国家による再分配機能強化という名目での官僚支配の強化が幸せにつながらないことを、国民は直観的に感じとっている。・・・(以下略)

佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」Vol.064(2015年7月8日配信)より

このテーマについて深く知るための「連読」3冊
・佐藤優『いま生きる「資本論」』新潮社、2014年7月
・柄谷行人『世界共和国へ――資本=ネーション=国家を超えて』岩波新書、2006年4月
・宇野弘蔵『経済原論』岩波書店、1964年5月

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