新国立競技場問題
マスコミが報じない”有識者会議”の真実

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新国立競技場建設については、政府の決定も下され、工事契約も開始されたが、皮肉なことに、この段階でやっと世論の関心が高まってきた。

1年半前に、このような議論がなされていたらと悔やまれてならないが、その頃、都知事に就任した私のところに、文科大臣からは都に建設費財源の協力を要請する話などはなかった。

今年の5月18日に、下村文科大臣が都庁に来て、会談し、その場で要請されたのが初めてである。この問題については、すでに5回にわたって、本コラムで詳細に論じたので、それを参照してほしいが、最近の動きも含めて、さまざまな誤解もあるので、簡単に述べておきたい。

建設の責任者は「JSC」「文科省」「政府」である!

まず、新国立競技場は、「国立」である以上、国の責任で建設すべきものである。具体的には、JSC(日本スポーツ振興センター)、それを監督する文科省である。森喜朗氏が会長を務める組織委員会や、東京都が建設をするわけではない。

私は、新国立競技場建設について、壮大な無責任体制であることを、大日本帝国陸軍にたとえて批判してきた。政府は、「誰が最終責任を持つのか」を明確にしたほうがよい。

その政府は、下村大臣が、6月29日の調整委員会で、「総額2,520億円、2019年5月までに完成」という政府方針が決定したことを報告した。私を含め、多くの方々から出された問題提起をきちんと考慮した上で、その決定に至ったはずである。

29日に公表された政府方針について、7月7日、JSC主催の有識者会議で詳細な技術的説明がなされた。ふつう、有識者会議や審議会といった諮問機関は、その道の専門家が参加するものであるが、「あて職」で都知事もメンバーとなっている。残念ながら、私は建築の専門家ではないので、技術的な説明について、それが正しいのか間違っているのかを判断する能力はない。

そもそも、この有識者会議には、何らかのことを決定する権限はない。ただ、説明を聞き、意見を開陳するのみである。しかも、大多数のメンバーが建築の専門家ではない。したがって、一部の報道にあるように、政府決定を「承認」したり、「了承」する権限はない。もし、そんな権限があるのなら、政府決定を拒否して反故にさせる権限もあるはずである。

当日、多くの批判、反論、問題提起がなされたが、それをどう受け止めるかは、JSC・文科省・政府の自由であり、かれらに決定権限がある。司会を務めたJSC側も、「承認」「了承」などといった言葉は一切使っておらず、「最終的な決定につきましては、JSCと文科省のほうで出させていただくことになっております。本日は貴重なご意見ありがとうございました」という言葉で会議を締めている。

この会議は、マスコミにフルオープンであったので、記者諸君は議事をすべて聞いているはずであるのに、一部の新聞は、社説などで、「都知事が政府決定をひっくり返さなかったのは問題だ」というような論を展開している。私にその権限はないし、私は建築の専門家でもない。しかも会議の場で、突然細かい数字を出されても、判断は不可能である。

そこで私は、開催地の首長として、「JSC、文科省、政府の責任で、(設定した期限に)間に合うように、然るべき競技場を作る」ことを強く要望した。

国会で、予算案や、いま審議されている安保法案のような重要法案は、採決の前提として中央、地方公聴会を開く。しかし、その場で、公述人がどのような意見を述べようと、国会の委員会が採決によってすべてを決する。有識者会議は、この中央・地方公聴会と同じで、決定に至るまでのワン・ステップでしかない。有識者会議に何らかの決定権があるように報じるマスコミもまた、この国の無責任体制を助長しているのではないか。

建設の責任者は、あくまでも「JSC」「文科省」「政府」である。その責任者である文科大臣が、新国立競技場のデザイン選考について、当事者意識のない、まさに部外者のようなコメントをされるのは、私の理解を超える。

ちなみに、私は、連続コラムの第5弾「神宮外苑地区の再開発計画にも暗い影を落とす新国立競技場問題」(6月16日)で、次のように書いた。

〈 本当に2020年に間に合うのか、また経費もさらに膨れあがることはないのか、また前代未聞の難工事と言われているが、技術的に難しすぎて途中でギブアップなどということはないのか。そのようなことを懸念する建築専門家は多数いるが、ザハ案で大丈夫、二本のキールアーチなど技術的な問題なくできる、従って工期も経費も大丈夫などと主張する専門家には会ったことがない。

(中略)文科大臣も私も、建築や設計の専門家ではないので、ここはプロの出番ではないのか。そして、プロに納得できる説明をしてもらった上で、総経費や工期について明示してもらわねばならない。 〉

7日の有識者会議で、JSC側のアドバイザーである建築専門家の和田章氏は、ザハ案のキールアーチを使った工法こそ最善の策であるという見解を述べたが、そのような意見を聞いたのは初めてである。

しかし、キールアーチについて、賛成派と反対派のどちらが正しいのか、私には判断する能力がない。マスコミはこの和田氏の見解を大きく報じることはなかったが、彼と同じ意見の専門家は、もっと広く世間に訴えたらどうなのか。マスコミも、賛成派の専門家に取材する努力をしてみたらどうか。

有識者会議の翌日、8日に遠藤五輪担当大臣が都庁に来て、私と会談し、都に協力要請をした。担当が下村大臣から、遠藤大臣に代わったという。私は、誰であれ政府の代表であればよいので、話をしたが、制度上は、JSCを管轄するのは文科相である。担当大臣の変更が無責任体制とならないことを祈るが、下村大臣の先述した発言を聞いていると、危惧の念が高まる。

遠藤大臣とは、政府と都から事務レベルで検討を開始することで合意したので、財源について、現行法制のもとで、どのような協力ができるのか、できないのか、ゼロベースで作業を開始したいと思っている。

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