現代新書
精神科病院准看護師が
患者の頭を踏みつけ、首の骨を折る
異常虐待の闇が明るみに!【後編】

精神科看護師の暴行を報じたテレビ朝日報道

千葉県中央区にある精神科の「石郷岡病院」の2人の准看護師が、入院していた男性患者ユウキさん(仮名)の頭を踏みつけるなどして首の骨を折るけがを負わせ、2年後に死亡させるという驚愕の事件があった。

暴行の一部始終を撮影した監視カメラの映像が決め手となって、2人は傷害致死容疑で7月8日に逮捕された。

先週公開した前編(→こちら)では、ごく普通の大学生だったユウキさんが、精神科病院に長期入院することになった経緯と、暴行ビデオをご家族が確認したところまでを記した。

では、いかなる暴行の末にユウキさんは命を失うことになったのか? この事件が投げかけている日本の精神医療の問題とは?

この問題をずっと追究しつづけてきた読売新聞医療部の佐藤光展記者が書いた『精神医療ダークサイド』(講談社現代新書)の調査報道をもとに、事件の一部始終をレポートする。


ユウキさんが隔離された部屋に設置されていた監視カメラは、看護師の暴行行為の一部始終を撮影していた。

ビデオ映像を見ると、激しく踏んだり蹴ったりしているように見える。暴行を受けた時、ユウキさんは床にあおむけに寝かされていたが、彼の首は以前飲んでいた薬の副作用であごが鎖骨のあたりにつくほど前傾し、頭部が浮き上がっていた。そこを強く踏みつけられたらどうなるのか。

→暴行行為を撮影したビデオ映像(オリジナル)

→ユウキさんの姉のブログ

2012年7月、私(編集部注 佐藤光展記者)はユウキさんの実家でこのビデオを見せてもらった。両親が今後の裁判に備えて証拠保全の手続きを行い、1月1日と2日の録画をカルテなどとともに入手したのだ。


1月1日午後4時過ぎ。狭い保護室の天井に設置され、部屋の隅々を真上から映す監視カメラが、看護師と思われる男性職員2人の入室を捉えた。そこはドアの横に便器と、あとは布団と枕があるだけの刑務所のような空間だ。

床に座り、ドアとは逆の格子付き窓の方向を長時間眺めていたユウキさんの肩に、後ろから来た職員が手をかけ、引き倒してあおむけに寝かせた。この時、普通であれば横たわったユウキさんの顔は真上にあるカメラに正面を向け、はっきり映るはずだが、実際の映像では頭頂部あたりしか見えない。

以前の病院で多量に飲まされた薬の影響で、ユウキさんの首は激しく前傾し(斜頸)、あごが鎖骨につく状態で固まっていたためだ。床に寝ても頭が上がったまま動かないのだ。
 

 
この状態で、職員らは栄養食らしきものをユウキさんの口に含ませ、2人がかりでおむつ交換に取りかかった。

交換自体は手慣れた様子ですぐに終わったが、ズボンをはかせようとした時、問題が起こった。ユウキさんがあおむけのまま両脚をバタバタと動かし、抵抗したのだ。

この時、職員はユウキさんの左右に1人ずついた。ユウキさんの右手側の職員を職員A、左手側の職員を職員Bとしよう。2人はかがみ込んだ姿勢でズボンを両脚に通そうとするが、二度、三度とやってもうまくいかない。ズボンを下肢に通しても、ユウキさんが脚全体を動かして抜いてしまうのだ。ズボンの締め付けや肌触りなどが嫌だったのかもしれない。
 
職員がさらに力を込めると、怯えたように胸の上に置いていたユウキさんの右手が「やめて」と言わんばかりに下方に伸びた。この手を職員Aが押さえ、再び胸に戻した。

その時、ユウキさんの脚がさらに激しく動き、職員Bの体が前から強い衝撃を受けたかのように後ろに移動した。職員Bの体は、この瞬間は後頭部と背中しか映っておらず、体の前側で起こったことは特定できないが、状況と衝撃の大きさから見て、おそらく上半身のどこかに、ユウキさんの左脚が蹴るような形で当たったと思われる。
 
次の瞬間、職員Bは腹を立てた様子で突然立ち上がり、ユウキさんの頭部に近づいて右脚を激しく前に振った。靴を履いた足が頭部に当たったかどうかは、この職員の体に遮られて確認できないが、この時、ユウキさんの頭部が激しく動いた。

さらに、右脚がもう一度勢いよく前に振られた。この場面は、カメラが足先までしっかりと捉えていた。右足が頭の上方に蹴りこまれ、衝撃でユウキさんの髪がひどく乱れた。続いて、右足を軸にユウキさんの頭部をまたぎながら、左足で顔面のあたりを踏みつけた。この動作もカメラにはっきりと映っている。
 
この後、職員Aがユウキさんの上半身に自分の体重を浴びせて押さえ込み、暴行した職員Bはユウキさんの片足を踏みつけた。そこに3人目の職員が現れてズボンをはかせ、間もなく職員全員が保護室から出て行った。

あおむけのまま床に横たわった状態で、残されたユウキさん。ここでカメラは不自然な現象を捉えた。ユウキさんの顔が、真上のカメラの方を向いているのだ。あれほどひどかった斜頸が、すっかり治ったかのように。

この病院の院長は当初、ユウキさんの負傷の原因を「自傷行為」と説明した。だが後に「自傷行為はなかった」と説明を変えた。そうであれば、首の骨折はこの暴行で生じたと考えるのが自然だが、ユウキさんは暴行を受けた後、しばらくして立ち上がったことがビデオで確認できた。苦しそうにかがむ場面や、首を手で押さえて気にするような様子は映っているが、元日の夜も体は動いていた。
 
ユウキさんは床に布団を広げて横向きに眠った。2日の朝も、布団の上で脚が動いていた。午前9時半過ぎ、職員4人が入室。ユウキさんをあおむけにした後、1人が頭を手で軽く押さえるなどして栄養食を口に入れ、別の職員がおむつを確認した。

ユウキさんの体に明らかな異変が起こったのはこの時だ。脚の動きがぱたりと止まった。だが職員たちは気にする様子もなく、決まった手順を済ますと保護室から去った。

以後、カメラは無情にも、不随になったと思われるあおむけのユウキさんを記録し続けた。脚はだらりとしたまま動かず、時折、手がけいれんしたように震える。顔はやはり天井を向いている。病院がユウキさんの異変に気づき、救急車を呼んだのは翌3日の昼だった。

原因不明と居直る病院

この事件は2012年2月、読売新聞の朝刊連載「医療ルネサンス」で取り上げた。石郷岡病院の院長は取材に対し、こう語った。

「当初、ご家族に自傷行為と説明したことは確かですが、ビデオには映っていなかった。原因は不明。職員が何かをする様子は確認しましたが、頭部を足で少し押さえる行動のように私には見えた。おむつ替えの後にも立ち上がる場面が映っている。首が折れていれば、そのような動作はできないと思う」
 
「時間が経ってから負傷した部分が悪化し、重い症状が出ることもあるのでは」との私の質問には「専門ではないので分からない」とした。
 
負傷前、ユウキさんの首は斜頸のため前傾して動かず、あおむけに寝ても頭部がかなり上がった状態だった。そこを足で強く踏まれたらどうなるのか。
 
斜頸などのジストニアの治療経験が豊富な川崎市立多摩病院神経内科部長の堀内正浩さんは「斜頸が続いても、首の骨が骨粗鬆症のようにスカスカになって弱くなることはない。しかし首の関節が固まってしまうため、衝撃を受けた時にその力が逃げず、一ヵ所に集中してしまう。通常より小さい力でも首の骨が折れることは考えられます」と話す。

それでは、首の負傷がしばらくしてから重傷化することはあるのだろうか。脊髄の病気や傷害の治療に取り組む東京の総合病院の脳神経外科医は、3つの可能性を示した。
 
(1)暴行により頸椎に脱臼などの不安定性が生じた。その後の軽い衝撃で頸椎がさらにずれるなどして、脊髄に深刻なダメージが生じた。
(2)暴行の段階で脊髄に何らかの出血が生じて、これが次第に増えて脊髄を圧迫し、麻痺が起きた。
(3)多量の服薬、もしくは飲食が十分できないことなどによる脱水のため、脊髄に虚血が生じて麻痺が引き起こされた。
 
外傷後に症状が進む場合は(1)が多く、(2)がまれに存在するという。麻痺が外傷よりも遅れて生じることはあるという。

不自然な点はまだある。映像を見る限り、ユウキさんは首の痛みをそれほど感じていないようなのだ。

この脳神経外科医は「頸椎の骨折は、程度によっては麻痺などの神経症状が現れない場合があります。ただし、痛みはほとんど必発。頸椎が骨折したり、ひびが入ったりしても痛みを感じない場合は、感覚の異常が合併したか、薬剤などで痛みを感じにくくなっていることが考えられる」と言う。

だが、ユウキさんは統合失調症の誤診が分かって以来、薬をほとんど飲んでいなかった。過去の不適切な治療は認知機能を低下させただけでなく、痛みの感覚まで鈍らせてしまったのだろうか。
 
ユウキさんは、石郷岡病院から救急搬送された総合病院で自発呼吸が停止するなど、一時危険な状態に陥った。何とか危機を脱し、肩や上腕は動くことが確認できた。だが脚は動かず、今後も動く見通しはたたない。
 
2012年春、療養型の病院に転院した。6月末には痰が詰まり、一時危険な状態に陥った。鼻から管を入れて栄養を補給してもやせ細る一方で、栄養を胃に直接送るをつけたが、2013年4月には180㎝弱の身長に対し、体重が36㎏になった。10月には39㎏まで増えたが、肺炎を何度も繰り返し、たびたびひどい血尿が出るなど危険な状態が続いている。

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