あなたのコミュニティ、本当に「We」で語れますか? お金以上の価値ある場づくりに不可欠な3本の矢

2015.7.30 THU

2013年2月、目黒の印刷工場跡地に開設された「Impact HUB Tokyo」。世界73ヵ所に存在し、のべ1万人を超えるImpact HUBネットワークの一員として、次の社会のかたちを追いかけています。メンバー共通の価値観は「社会的にインパクトを与えること」。現状を疑い、アクションをとり、インパクトを生み出します。

Impact HUB Tokyoは、起業家やチェンジメーカーのコミュニティとして、150名以上のスタートアップ起業家や企業内起業家、フリーランス、アーティストなどさまざまな人材の出会いの場となっています。加えて、メンバー同士がギブ・アンド・テイクでそれぞれの知恵やスキルを交換し、コラボレーションの創発が起こる場でもあるのです。

コミュニティの価値を理解した個人が媒介者となることで、新しいメディアとして、社会にインパクトを与えようとしているのです。では、そもそもコミュニティとはどういう状態なのか。欠かせないものはなにか。どのようにつくるのか。現在において、(読者や視聴者の)コミュニティづくりを意識することは、メディア運営でも大切な軸のひとつとなっていると思います。

今回、「メディア化する場所」としてのImpact HUB Tokyoを運営する株式会社HUB Tokyo代表取締役の槌屋詩野さんにお話を伺いました。場の作り方やコミュニティの価値などについて(取材・佐藤慶一、徳瑠里香、藤村能光[サイボウズ式]/写真・岩本良介)。

Impact HUB Tokyoの入口(写真提供:Impact HUB Tokyo)

営業時間もテーブルや椅子の配置も、場の哲学につながる

――槌屋さんはイギリスにいたときにImpact HUBと出会ったそうですが、組織として、どのようにこの場をつくっていったのでしょうか?

槌屋:Impact HUB Tokyoは2013年2月にオープンしましたが、2012年から立ち上げに向けて動いていました。当初、4人のチームで立ち上げプロジェクトがはじまりましたが、紆余曲折あり、3人がいなくなってしまい私一人になりました。要するに、お金や労力のコミットメントも含めて、本当にすべてをこの場づくりに注ぎ込める人は多くなかったということです。

実際、この場所自体でそれほど儲けることはできないと思います。それでも、私たちがこのコミュニティをつくることは、これまでになかったセーフティネット――ある意味でエコシステム――をつくることなんです。散り合っていた人が集まり、ちゃんと機能するエコシステムをつくるためには、さまざまなコミットが必要になります。

たとえば、朝8時半にドアを開けたり、掃除をしたり、一人ひとりの事業に対して価値のあるものを提供したり、相手から学ぼうとしたり、対話の場に参加したり、コラボレーションが生まれる予感を感じ取ったり――こういうことについてすべてコミットできるという人はそうそういません。

だいたいの人は、「これはやりたいけど、これはやりたくない」というピッキー(選り好み)になってしまうんです。そうなると、ライティングだけしたいとか、ファシリテーションだけやりたい人だけが集まる偏ったコミュニティになり、大本のミッションである社会的なインパクトを与えることができなくなります。だから場づくりというのは、むずかしいんですね。

――だからこそ、偏らないためにすべてにコミットする必要がある。

槌屋:そうそう。さきほどエコシステムと表現しましたが、場というのはすべてのことが一貫してつながっているんです。たとえば、営業時間をどうするかということと、場のフィロソフィー(哲学)はつながりますし、土日も24時間空けるのかどうか、テーブルや椅子の配置をどうするのかもすべて場づくりに意味のあることです。

なかなか、場のすべてに対しておもしろがれる人はそう多くありません。だから、最初の6ヵ月くらいはチームが安定しなくてたいへんでした。でも、そのあとはチームが安定してきて、いまImpact HUB Tokyoを運営している7名のうち、その当時からのメンバーは私を入れた4名が残っています。

「多様なカオス」をどうつくるのか

――残ったメンバーと残らなかった人の差はなんだったんですか?

槌屋:残らなかった人に関しては、たぶん、よくわかってなかったんだと思います。Impact HUBというものがなにかということを本質的には知ることができなかったのかもしれません。そもそも、日本の人材市場には、このようなコミュニティをつくることを経験したことがある人がいなかったし、もちろんそのようなことが得意な人などいない状況でした。

たとえば、マーケティングが得意な人がいたとして、これまで培ってきたスキルがすべて使えるかというとそうではありません。つまり、どんなスキルがある人でも、ここでは学び続けなくてはならなかったのです。

残ったメンバーでいうと、私ともうひとりの経営陣は社会人経験がありました。私は国際協力NGOやシンクタンクで新規事業を作る専門家として働いた経験がありますが、それだけの経験ではやはりImpact HUBを作るのには足りません。そこで経営者として1人残ってしまったときに、新たに入ってもらったもうひとりのファウンダー(ポチエ真吾)は、経営面を強化するために不可欠でした。テック系にすごく強く、資金調達とかにも通じていて、スタートアップでCFOを務めた経験もあります。

一方で、残りの2人は大学院卒と大学生で、最初の6ヵ月苦労していたときに、加わってくれました。ひとりはずっとカフェ(の経営)に興味があり、Impact HUB Tokyoでコミュニティづくりを学んでいます。もうひとりは、社会的なビジネスを勉強していて、机上の空論ではなく、学んでいることをリアルに実践することに興味をもってコミットしてくれたんだと思います。

だから、それぞれのメンバーがそれぞれのインセンティブをもち、多様な人材がミックスされています。チームづくりでは偏らないことを意識して、「多様なカオス」をどうつくるのか、それに適したチーム(Right Team)をつくるにはどうしたらいいのか、いまでも常に考えています。大企業の内定を蹴って、Impact HUB Tokyoの運営に入ってくれたチームメンバーもいます。

(左)フルタイムのインターンとしてImpact HUB Tokyoにかかわる川原さんと(右)代表の槌屋さん

――偏らないメンバーを集めて場をつくるなかで、どういうところにこだわりましたか?

槌屋:ここの大家さんはかつて大企業のCSRを手がけていたこともあり、Impact HUBの話をしたときに、社会起業やイノベーションを起こす人が集まることに共感してくれました。ここは、本当に印刷所そのままだったので、同じ価値観でつながれていなかったら、目黒でこの大きさ(440平米)の場所を運営することはむずかしかったと思います。

場所が決まると、みんなで板を買ってきて、テーブルなども手作りしました。実は、最近も追加的にリノベーションしたんです。お金がたまったら、少しずつリノベーションしていき、5年かけて完成形にしようと話し合っています。いまちょうど2年半ですが、試してみて、使い心地の悪い場所を少しずつ直しています。なぜかというと、この場所やコミュニティ自体をプロトタイプするつもりで作り上げていこうと考えているんです。

最初に大きな絵を描いて建設物をつくってしまうと、流動的なコミュニティの変化に合わせて、場を変えていくことがむずかしくなります。たとえば、ちょうど最近では、3Dプリンターやレーザーカッターを利用するハードウェア系のスタートアップが増えてきたので、そのための作業所をつくりました。

場づくりにおいては、特に人が重要です。Impact HUB Tokyoは小さな会社であり、コミュニティなので、そこには私たちも内包されています。私たちもコミュニティの一員なので、コミュニティへの愛がないと場づくりを続けるのはむずかしいと思います。

コミュニティとは、「We」で語ることができる状態

――Impact HUB Tokyoにとって、コミュニティとはどういうものでしょうか?

槌屋:そもそも、私たちは、面積の大きさがコミュニティを決めると考えていました。たとえばこの場所が30坪であれば、その規模で集まれるコミュニティしか出てこないですが、ここには200人が入ります。イベント後に起こるコラボレーションを考えると、30人のコミュニティと200人のコミュニティとでは、質もあり方も異なります。

オープン以降、いまでもコワーキングスペースやインキュベーションといったカテゴリーに分けられることが多いのですが、Impact HUB Tokyoがそれらと違うことに周りもだんだんわかってきていると思います。コミュニティというのは、「We」という単語を使うようになる状態です。

だから、これまでいっしょに仕事をしたことがなくても、ここにいる人は同じ価値観を持っています。Weで語ることができるので、コラボレーションが生まれるのだと思います。ただ、こういうコミュニティの感覚が、それぞれのビジネスやモチベーションの加速に役立つものになるには時間がかかりました。

Impact HUB Tokyoは印刷工場跡地にある

――Weで語ることができるコミュニティづくりのためには、普段は具体的にどういったことをやっているんですか?

川原:Impact HUB Globalではスタッフのことを「ホスト(Host)」と呼び、コミュニティをつくるために、ホスティングチームを組んでいます。数ヵ月前、ホスティングチームで集まり、コミュニティをつくることはどういうことなんだろうと話したことがありました。まず本当に地味ですが、場を保つことが大切です。普段の掃除や植木の水やりなど、みんなが使いやすいように場を清潔なままにしています。

そして、人と人をつなげることがコミュニティに欠かせません。利用者がほしいと思っているもの・ことを聞き出して、それに合ったメンバーをつなげ、コラボレーションが生まれる環境づくりを心がけています。キッチンでお茶を飲みながら立ち話をしたり、メンバーランチやHUB Drinkを開催することで、この場所や人を好きになってもらう機会をつくり、コミュニティの一員なんだと実感してもらえるような場づくりをしています。

――なにか普通のランチとの違いはあるんですか?

川原:特徴というと、料理をつくるところからやっていることですね。プロセスを共有することで、Weで語ることができるひとつのきっかけになっていると思います。また、夜のHUB Drinkは、日中にImpact HUB Tokyoに来れない企業内起業家のような方々が集まる場となっています。それぞれのメンバーがそれぞれの領域や知識、スキルをもっているので、プレゼンしてもらうこともあります。いまはデザインやアートにかかわるメンバーを中心に日本の伝統継承を語る集まりを開催しています。

槌屋:Impact HUB Tokyoでは勉強会もやりますし、起業家育成プログラム「Team360」も運営しています。場づくりにあたって、ハードウェアとソフトウェアの2つの観点がありますが、勉強会やミートアップなどのソフトウェアがつくる場はすごく大きな価値を生み出していると思います。

コラボレーションは"起こす"ではなく、"起きる"もの

――人が媒介となることで、この場に価値が生まれるということですね。Impact HUB Tokyoを「メディア化する場所」として捉えたときに、人や出来事を媒介するために意識していることはなんでしょうか?

槌屋:私たちがImpact HUB Tokyoを立ち上げるとなったとき、ほかのImpact HUBから媒介に必要な3要素を教えてもらいました。聞くだけだとあまり意味がわからないんですが、実際に場をもち、実践していくなかで、わかってきたことみたいです。

まず、ひとつ目はトラスト(信頼)。信頼し合えるコミュニティをどうつくるかということです。ふたつ目はコラボレーション(協業)。コラボレーションは起こそうと思って起きるものではなく、現象として、自然に起きていくもの。そこで、コラボレーションが自然と発生する場をどうデザインするのか考えなければなりません。

最後の3つ目はカレッジ(勇気)。抽象的な言葉になりますが、これを考えるうえで欠かせないのは、さきほどの「We」という感覚です。世界70ヵ所以上、1万人を超えるImpact HUBのネットワークに、同じ価値観を持つ人が集まっているのは、勇気につながり、励まされます。次の社会を見たい、社会的なインパクトを与えたいと考えているのはひとりじゃないと実感できることが大切なのです。

このコミュニティにはイントレプレナー(企業内起業家)も多くいます。企業のなかで「自分の組織を変えよう」「組織でもっと社会的な事業をやろう」と思っている人たちが――社内では四面楚歌の日々を送っている人もいるんですが――ここに来ると上司の動かし方や適切な外部パートナーを知る場にもなっています。私たちは、企業内起業家と社会起業家を区別せず、勇気づけている部分はあるかと思います。

Impact HUBの本質は拡大より「多様」

――世界中で拡大を続けるImpact HUBネットワークに参加していて、社会的なインパクトを与えるという共通意識のほかに、どういうところに魅力や価値を感じますか?

槌屋:グローバルなネットワークに参加していると、当たり前かもしれませんが、それぞれの都市で形成されるエコシステムが違います。たとえば、ソーシャルジャスティス(社会正義)というものが存在しないに等しいドバイではソーシャルアントレプレナーというと政府から睨まれたり、ロンドンでは2007年の世界的な金融危機以降、金融業界を去った人たちが社会的な投資という分野をつくっています。ほかにも富裕層が多いスイスではチャリティの市場が大きい一方、東京はまだ社会的な投資という分野がほとんどない状況で、これからつくっていく段階です。

そもそも東京では社会起業家のロールモデルがあまりにも少なく、これから多様なロールモデルを輩出していかなければなりません。東京はいま、まさにエマージェンス(発展段階)な状態であり、そこでおこなうわたしたちの活動――キーアクティビティ――は当然、他国とは異なるものになります。世界各地のローカルマーケットを見据えて、コミュニティをつくっていくということになります。

さきほど各地のエコシステムの違いをお伝えしましたが、Impact HUBネットワークに参加する大きな魅力は、各地ならではのストーリーが共有されることです。Impact HUB Tokyoができたときも、「おもしろいストーリーを聞かせてくれ」と言われました。新しいImpact HUBが入るということは、新しいストーリーが聞けるということ。それがグローバルな価値だと感じています。

Impact HUBの本質を考えたときに、拡大していくというよりは、多様になるという方向性がしっくりきます。新しいストーリーを聞き、自分たちの都市の状態と照らし合わせることができるのは、よいことだと思います。そのような状況が実現することで、コラボレーションが発生し、イノベーションが起きる土壌が整う場所が生まれていくのではないでしょうか。

――各地でストーリーが生まれ、それを共有しあうというのも、メディアらしいことだと思いました。

槌屋:Impact HUBでは人がコンテンツとなっています。同じ価値観をもつ人が世界中を移動し、つながり、ストーリーを共有することで、さらに価値を増すのだと思います。トラスト(信頼)、コラボレーション(協業)、カレッジ(勇気)という、媒介に必要な3要素を紹介しましたが、メンバー同士が媒介となっている状態を考えると、Impact HUB Tokyoはメディア化する場所と言えるのかもしれません。これからもこの場所自体のプロトタイピングを続け、多様な起業家とコラボレーションを生み出し、社会的なインパクトを生み出すコミュニティをつくっていきたいと思います。

槌屋詩野(つちや・しの)
株式会社HUB Tokyo共同創設者&代表取締役。国際協力NGO勤務を経て、シンクタンクにて環境・社会的責任投資分野で事業プロデューサーとして活動。その後、途上国および欧州で日本企業のソーシャルビジネスを担当する。2012年より東京に戻り起業し、ソーシャル・スタートアップのコミュニティ、 Impact HUBの東京拠点「Impact HUB Tokyo」を設立。2013年より起業家育成プログラム「Team360」や海外からの起業家プログラムを担当、年間数十名の起業家たちの最初の一歩を踏み出す手伝いをしている。
http://hubtokyo.com/
編集後記
場所はメディアなのか? そんな抽象的な問いを抱えて「Impact HUB Tokyo」を訪ね、お話を聞くなかで、「人が媒介になっている」「共通の価値観をもっている」「Weで語ることができる」といった言葉がメディアにつながると思いました。好き嫌いや趣味、ミッションなど同じ価値観で仲間とつながるコミュニティがあるのは、普段の暮らしでも心地よく楽しいことです。そういえば、自分はどんなコミュニティに属していて、それらは「We」と呼ぶことができたっけ。ふと、そんなことを考えてみると、意外と遠かったメディアを身近に感じるきっかけになるのかもしれません(佐藤慶一)。

おわり。