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身近すぎて意外に知らない 
海の波には2種類あるってご存知ですか?

保坂直紀=著『謎解き・津波と波浪の物理』波長と水深のふしぎな関係
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海底を感じるかどうか、それが問題だ!

広大な海をわたる波には、2つの種類がある。「海底を感じる波」と、「海底を感じない波」だ。時速700kmもの猛スピードで進む津波は、つねに海底を感じている。南極近海で生まれ、アメリカ西海岸へと到達する「うねり」は、海底を感じることなく1万kmもの長旅をこなす。波が海底を感じるとはどういうことか? 波のふるまいを左右する「波長」と「水深」のフクザツな関係とは? 身近なふしぎ現象を、数式なしでわかりやすく解き明かす。

まえがき

 ときどき、海を見に行きたくなる。海辺の料理屋で新鮮な刺身を食すのもよし、磯の香に包まれるのもよし。だが、海に惹かれる心の底にあるのは、きっと海の波なのだと思う。

 やむことなく波は寄せる。ゆるやかに弧を描く砂浜にも、荒々しい磯にも。砂浜に近づいた波はザーッと音をたてて白く崩れ、もうすこしだけ浜を駆け上がる。つかの間の静けさ。それを破るように、次の波がまたやってくる。

 太陽がやっと力をつけてきた春の海。焼けるようなまぶしい夏。そして、秋の夕暮れ。波は遠くからやってきて、岸で砕けてその一生を終える。波の音にどこか寂しさを感じるのは、そのはかなさゆえだろうか。

 海の波はしかし、ときとして人々の暮らしに容赦なく襲いかかる。2011年3月11日。東日本大震災で三陸地方などを襲った津波は、場所によっては40メートルの高さにまで到達し、死者と行方不明者は2万人近くにおよんだ。

 海には波がある。四方を海に囲まれて生きるわたしたち日本人にとって、これはもう、あらためて思うまでもないあたりまえのことなのだろう。残念なのは、この海の波について、小学校や中学校、そして高校でさえも教えていないことだ。同じ波でも、音波は高校の物理で習うが、水面にできる波はあつかわない。海岸に行けば波が寄せてくるし、池にカエルが跳び込んでも水面に波ができる。水面の波は、こんなにも身近だというのに。

 これから、津波と、風が海につくりだす波についてお話ししていこうと思う。

 津波と風がつくる波は、どこが同じで、どこが違うのか。そもそも、海面の波はどのようなしくみで伝わるのか。

 津波がジェット機なみの速さでやってくるというのはほんとうなのか。

 波をつくる風の向きはさまざまなはずだが、波はどうしていつも、岸に向かってまっすぐ押し寄せてくるのだろう。

 じつは海には、大きく分けて2種類の波がある。「海底を感じている波」と「海底を感じない波」だ。前者は、海の深さを感じとって、進む速さを変える。波はまるで、生き物のような存在なのだ。

 はるか遠くの台風からやってくる「うねり」。これももちろん海の波だが、ふしぎなことに、うねりは、うねりが進む速さの半分のスピードでやってくる。「うねりの速さがうねりの速さの半分」とは、いったいどういうことなのか。こんな奇妙なことが、現実の海で起きている。

 海の波には、ふしぎがいっぱいだ。

 じつは、小中学校や高校で水面の波について教えないのには、訳がある。とてもなじみ深い現象なのに、その数学的な取り扱いがかなり難しいのだ。水の波がはじめて登場する大学の教科書では、まず式をたて、それを解いて出てきた答えをもとに波の性質を説明していく。つまり、数学の力量がなければ理解できないしくみになっている。

 海流についてお話しした前著『謎解き・海洋と大気の物理』(講談社ブルーバックス)と同じように、この本では数式を使わない。数式を使わずに、ぎりぎりのところまで言葉で説明したい。そのとき、読み進めなくなって全体像を見失ってしまうほどの過度な厳密さにはこだわらない。そこは、さらりとかわしたい。数式を用いた厳密ですっきりした説明がお好きなら、ぜひ書店で専門書の棚を探してほしい。大学レベルのそのような良書は、たくさんある。

 この本のもうひとつの特徴は、波の動画を組み合わせていることだ(http://bluebacks.kodansha.co.jp/bsupport/wave.html参照)。この動画は、たんなるアニメーションではなく、波を表す数式をきちんと解いてつくった本物だ。言葉ではどうしても説明しきれない波の姿も、動画で見ればすっと納得できる。動画を見ながら読み進めれば、説明の真意がいっそうはっきりするはずだ。

 前置きはこれくらいにして、さっそく波の世界に入っていこう。まずは、風がどのようにして波を育てていくのかというお話から―。

著者 保坂直紀(ほさか・なおき)  
一九五九年、東京都生まれ。東京大学海洋アライアンス上席主幹研究員。サイエンスライター。東京大学理学部地球物理学科卒業。同大大学院で海洋物理学を専攻。博士課程を中退し、一九八五年に読売新聞社入社。科学報道の研究により、二〇一〇年に東京工業大学で博士(学術)を取得。二〇一三年に読売新聞社を早期退職して現職。気象予報士。著書に『謎解き・海洋と大気の物理』『子どもの疑問からはじまる宇宙の謎解き』(ともに講談社ブルーバックス、後者は共著)、『図解雑学 異常気象』(ナツメ社)など。
 
『謎解き・津波と波浪の物理』
波長と水深のふしぎな関係

保坂直紀=著

発行年月日: 2015/07/20
ページ数: 224
シリーズ通巻番号: B1924

定価:本体  860円(税別)
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(前書きおよび著者情報は初版刊行時点のものです)