古賀連合会長の「日銀法改正」
発言を報じないメディアの自滅

政府当局の意のままに操られ

 記者クラブ問題や小沢一郎報道などもあって、最近、メディアと政府当局との関係が関心を呼んでいる。私自身は、かつて当局サイドにいて情報発信側だったので、その観点から日本のメディアを見てきた。正直いって、扱いは簡単だった。私の思惑のまま、当局側のいうとおりに報道してもらった。

 特に、海外との比較などをちょっとした紙の資料にして渡すととても喜ばれ、そのまま転記してもらって記事になることが多かった。当然メディアに流す情報は役所にとって好都合のものだ。

 こうした私の経験をふまえ、先週の3日間に起きた金融政策に関する報道を振り返ろう。

 出来事は、4月6日(火)の民主党デフレ脱却議連、7日(水)の日銀政策決定会合、9日(金)の鳩山・白川のトップ会談である。

 結論から言おう。当局の意に反した情報は、ほとんど報道されないということだ。

 4月6日、「デフレから脱却し景気回復を目指す議員連盟」(会長松原仁衆院議員、以下デフレ脱却議連)の第2回会合が都内で開かれた。ここで鳩山政権のキーマンから重大な発言があったのに、ほとんどのメディアがその事実を報道しなかったのである。

 そもそも、3月30日に結成されたこの議連そのものが興味深い。民主党は小沢一郎幹事長の方針で、政策は政府に一元化することになっており、基本的に党での政策議論はない。ところがこの議連では、基本政策である金融政策について、政府とは別に党内で堂々と議論を行っているのである。しかも、その議連に100人以上が名前を連ねているのだ。

 30日の第1回会合では、武藤敏郎・元日銀副総裁が講師だった。元財務省事務次官である武藤氏は福田政権の時、日銀総裁候補になった。しかし、参議院で民主党が財務省OBであることを理由に同意人事に反対したため、総裁に就任できなかった経緯がある。そんな人物を、「デフレ脱却議連」が呼んだのは面白い。

日銀が青ざめた「デフレ脱却議連」での衝撃発言

 さて6日の第2回会合には、連合会長の古賀伸明氏、元・東京商工会議所副会頭の中西真彦氏、そして私が招かれ、順番に講演を行った。その日は、国会がのびて午後3時スタートの予定が40分遅れとなった。

 古賀会長は午後4時10分までしか時間がなく、あわただしい形でスピーチを行ったのだが、その最後に注目すべき発言をしたのだ。

「(アメリカの中央銀行の)FRB(連邦準備制度)は、雇用の最大化が政策目標に掲げられている。ところが日銀法には雇用への配慮が掲げられていない。日銀も雇用に対する一定の責任を果たすことを明文化すべきだ」と発言したのである。

 日銀法の改正を示唆したのである。私は聞いていて腰を抜かすほどびっくりした。事前に配付された資料にも、このことは触れられていなかった。こうした発言は労働界トップとして初めてだと思う。

 もっとも、経済理論からみれば、この発言は正しい。金融政策は雇用と大いに関係しているからだ。GDPギャップがあると物価が下がり、GDPギャップがあると失業が増える。物価と失業の関係は、GDPギャップを通じて、反比例の関係になっている。これは、経済学でフィリップス曲線といわれるものだ。

 デフレを脱却して、物価上昇率をプラスにするというのは、雇用面からみれば失業率を下げることと同じになる。この意味で、古賀会長の発言はきわめてまっとうである。ちなみに、その後の私の話も「日銀法を改正して雇用義務を明記せよ」だったので、期せずして古賀会長の話をダブってしまった。以下の図は、当日の私の資料の一部である。

 フィリップス曲線
(1981第一四半期から2009第三四半期まで:縦軸=失業率、横軸=物価上昇率)

 古賀会長の発言は、日銀にとっても寝耳に水だったようだ。いうまでもなく連合は民主党の最大支持基盤である。その前日の5日には、政府・連合トップ会談ということで、古賀会長は鳩山首相とも会っている。その古賀会長が日銀法の改正を示唆したことは、日銀にとって衝撃だっただろう。

 ところが、この重大発言を報道したメディアほとんどなかった。この会合はメディアにフルオープンで、数社の記者が聞いていたにもかかわらずだ。あまりの重大発言に、メディアが大切なネタ元である日銀の窮地を察して自己規制してしまったとしか思えない。

この続きは、プレミアム会員になるとご覧いただけます。
現代ビジネスプレミアム会員になれば、
過去の記事がすべて読み放題!
無料1ヶ月お試しキャンペーン実施中
すでに会員の方はこちら