雑誌
トヨタvs.警視庁
「麻薬」常務をめぐる攻防

捜査陣は善意の「社長会見」に怒った!
会見で自ら矢面に立った豊田社長〔PHOTO〕gettyimages

「私は彼女を信じる」と繰り返す社長を、苦々しい面持ちで見つめる男たちがいた。ひとたび狙いを定めれば、その捜査の手は迅速かつ静かに迫ってくる……。

結局、「彼女」は起訴猶予となる公算が高いが、これまでに水面下でなされたトヨタと警視庁の攻防を明かそう。

「組対5課」の男たち 薬物捜査のプロ中のプロ

「会社がひっくり返るほどの騒ぎ、と言っても言い過ぎではないと思います。社運を賭けた『目玉人事』が潰されたんですから」(トヨタ幹部社員)

まもなく創業から80年を迎えようという、日本を、いや世界を代表する巨大企業・トヨタ。その長い歴史を振り返っても、愛知県豊田市「トヨタ町1番地」にある本社、そして東京都文京区の東京本社に「彼ら」が足を踏み入れたのは、初めてのことだった。

6月23日午後7時すぎ、東京・後楽園にあるトヨタ自動車東京本社。隣の東京ドームが巨人vs.DeNA戦に沸くのを横目に、ビルに乗りつけた黒い車から、ダークスーツに身を固めた5人の男が姿を現した。まるで闇に紛れて「夜襲」でもかけようというかのようだ。

警視庁組織犯罪対策第5課、略して「組対5課」。厚生労働省地方厚生局麻薬取締部、通称「麻取」と双璧をなす、薬物捜査のプロ中のプロである。

「総務部長らの立ち会いで、ハンプ常務の個室から荷物と資料が運び出されていきました。もっとも、彼女が来日したのはこの4月ですから、持ち出した量は段ボール5~6個分だったということです」(前出・幹部社員)

豊田章男社長が満を持して常務に抜擢したその人物には、「初」の冠が2つもついていた。「初の女性役員」そして「初の日本常駐の外国人役員」。キャリアウーマン、そして「グローバル人材」を絵に描いたような女性だ。

55歳のジュリー・ハンプ容疑者は、広報部門のトップとして、世界中でトヨタの「顔」になるはずだった。それがまさか、麻薬の密輸で逮捕されるとは。のみならず、「世界のトヨタ」にガサ入れまで行われるとは—。

折しもトヨタは5月の決算発表で、'16年3月期の営業利益が過去最高の2兆8000億円に達するという見通しを示したばかり。青天の霹靂と言うほかない。

「トップが捕まってしまったものですから、広報部はてんやわんやです。海外向けの情報発信の統括はハンプ常務の仕事だったので、英語での釈明文の決裁を別の役員が肩代わりするなど、『想定外』の事態に対応しきれていません」(前出・幹部社員)

組対5課は、警視庁の中でもとりわけ規律、結束、そして口が堅い部署として知られている。23日のガサ入れも、さかのぼって6月18日のハンプ氏逮捕も、一切情報が外部に漏れることのない「不意打ち」だった。

「成田空港の税関が、アメリカから届いた小包の中に、麻薬成分を含んだ鎮痛剤『オキシコドン』が入っているのを発見し、警察に連絡を入れたのは6月11日のことでした。

その1週間後の18日午前、ハンプ氏が自宅代わりに滞在している六本木のホテル『グランドハイアット東京』に捜査員が出向いて、彼女を突然逮捕した。この間、トヨタ側には何の事前連絡もなかったといいます。

麻薬密輸の発覚から逮捕までの1週間、事実関係が確かなのか、そして逮捕に踏み切るべきか否かについて、内部では相当な議論があったようです。しかし、『やるかやらないか』の最終判断は、5課長に委ねられている。最後は現場の判断で逮捕に踏み切ったのでしょう」(警視庁関係者)

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