ホホジロザメ(Photo by creativecommons)

映画『ジョーズ』の悲劇~人食いのレッテルを張られたホオジロザメ

沼口麻子「サメに恋して」第22回

ホホジロザメの悲しき変遷

2015年、三重県紀宝町の鵜殿港に、全長6メートルほどあるホホジロザメが水揚げされた。同年4月15日付けの「紀伊民報」では

<地元住民からは「映画の『ジョーズ』みたい」と驚きの声が上がった。>

と報じている。

水揚げした際にホホジロザメの胃袋から逆流したでのあろう、未消化のドロドロした動物がサメの口から溢れでていて、まるで「恐ろしい」を絵に書いたような写真が載ってる。同紙はその溶けた肉がトド、またはオットセイだと報じた。

ホホジロザメはエサの捕らえ方、食べ方がとても特徴的だ。かれら以外のサメではまず見られない技術で獲物を捕らえている。

その技術は「スカイホッピング」と言われており、かれらは獲物を探索するために、水面から顔を出してアザラシの群れを見ていると言われている。攻撃の際は、季節によっては、水面に身体ごと飛び出していくこともあるという。

ホホジロザメがジャンプして獲物を捕らえる様子。興味のある方はディスカバリー・チャンネルのDVD『エア・ジョーズーホオジロザメ飛空地帯-』をぜひ参照してほしい。(Photo by iStock)

アザラシのような大きな獲物までもを捕らえる、力強さのシンボルのようなホホジロザメ。しかし、一方でかれらは「人を襲うサメ」という間違ったレッテルを貼られ、恐ろしい生き物として認識がされているのも事実だ。

なぜ、ホホジロザメが人の恐怖心を掻き立てる生き物になってしまったのか。その変遷を少し振り返ってみたい。

1916年7月、アメリカ合衆国のニュージャージー州で、人がサメに襲われる事件が発生した(「ニュージャージサメ襲撃事件」)。

この事件は、12日間で5人が襲われるというショッキングなものだったが、当時サメを専門に扱う研究者はほぼおらず、海洋学者の間ではサメが人を襲うという認識はされていなかった。「事件の犯人はサメ」がデマだと思う人も多かったという。

この時、人を襲ったとされたサメは、当時は「ホホジロザメ」と考えられていたが、今では「オオメジロザメ」と推定されている。

しかし、その認識をガラリと変えたのが、1975年に上映され世界的大ヒットを記録した、スティーブン・スピルバーク監督による映画『ジョーズ』だ。この作品の脚本に使われたのが、「ニュージャージーサメ事件」だったという。

恐怖心をあおる音楽を巧みに使い、サメの恐ろしさ過剰に表現した『ジョーズ』によって、この年の公開以降からサメは、「人食いモンスター」として全世界で認識されてしまった。

悪名高くなったホホジロザメに、その後悲しい出来事が降りかかる。

「人命の安全を確保し、人食いザメの恐怖から救う」という大義名分のもと、ゲームフィッシング(釣りをスポーツとして楽しむこと)でその命が多く奪われた。「悪者」退治でヒーローを気取りたい人間に、ターゲットとされてしまったのだ。ゲームフィッシングではさらに、ホホジロザメだけでなく、一般的にはあまり知られていないサメたちも多く殺されてしまったという。

この影響もあってか、現在、ホホジロザメは絶滅の危険が増大しつつある。正確にいうと、IUCN(国際自然保護連合)において、絶滅危惧II類(VU)にリストアップされている。絶滅危惧II類(VU)はの定義は以下のとおりだ。

絶滅危惧Ⅱ類 Vulnerable(VU)
絶滅の危険が増大している種。現在の状態をもたらした圧迫要因が引き続いて作用する場合、近い将来「絶滅危惧I類」のランクに移行することが確実と考えられるもの。

ちなみにIUCN種の保存委員会のサメ・エイ類専門家グループは、世界のサメ・エイ類の3分の1を調査し(約1,100種のうち373種)、17.7%が絶滅危惧種にリストされ、18.8%が準絶滅危惧種、37.5%が情報不足、25.7%が低懸念にリストされている。
IUCN(http://www.iucn.jp)より一部抜粋

「イルカのホロコースト」を問題視したドキュメント映画『ザ・コーヴ』の伝で言えば、人にとって有効に活用できるサメを大事にせず、「悪者」という間違ったイメージだけで次々と命を奪っていく行為は、もはや虐殺としか言わざるを得ないのではないだろうか。

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