防衛事務次官・西正典に聞く、オックスブリッジに学ぶ安全保障の神髄「歴史を押さえて物事の広がりを見よ」

オックスブリッジの卒業生は、いま

シリーズ「オックスブリッジの卒業生は、いま」、第7回目は西正典氏にインタビューしました。西氏は東京大学卒業後、防衛庁入庁、オックスフォード大学(トリニティー・カレッジ)へ留学。帰国後、宮下創平防衛庁長官秘書官、経理装備局長、防衛政策局長などの要職を経て、現在は第32代防衛事務次官として防衛大臣を補佐し、日本の安全保障にかかわる事務を整理・監督しています。

西次官と聞き手の丸﨑(写真:防衛省提供)

オックスブリッジ、英国への留学生さえいない時代に

-西次官はなぜ英国のオックスフォード大学を目指されたのですか?

英国と米国、双方に留学のチャンスがあったのですが、その時僕が色々と物を教わっていた方に相談をしたら、「防衛庁の仕事であれば米国には行く機会がたくさんあるだろうが英国にはなかなかないだろう。それから英国は必ず米国への『バックドア(裏口)』になるだろう。そのような点から留学は英国に行った方がいいよ」とアドバイスを受けました。それが英国を選んだ理由です。

次に、オックスフォード大学とケンブリッジ大学、どちらにするかという点については、両方にアプリケーションを出して、受け入れてくれたカレッジが古い方を選びました。僕の場合、オックスフォード大学のトリニティー・カレッジから合格をもらって、そこは16世紀にできたカレッジで、ケンブリッジ大学で合格をくれたカレッジよりも古かったのです。「The older, the better」の観点で、オックスフォードに決めました。

僕が留学した1982年当時、役所のなかにオックスブリッジを知っている者は全くいなかったし、そもそも英国に留学した人間が防衛庁にいませんでした。身近にオックスブリッジの留学生もいなかったため、カレッジ探しには非常に手間取りました。

マイケル・ハワード教授との出会い

-オックスフォードでの2年間はどうでしたか? そこで得た最も大きなものは何でしたか?

オックスフォードでの2年間を一言で言うと、「楽しかった」ということに尽きます。指導教官のマイケル・ハワード教授は、今ではメリット勲章(Order of Merit)受章者になっています。メリット勲章受章者というのは英国に20数人しかいない、女王陛下に直接アドバイスをするステータスを持っている人たちのことです。

彼は、戦史の一番の権威者で、彼の出世作は普仏戦争の歴史でした。最初ロンドン大学のキングス・カレッジで教えて、それからオックスフォードに来て、オール・ソウルズ・カレッジのチチェリー講座教授(Chichele Professor)をされていました。普通はドクターの学生しか指導しない先生でしたが、運良く直接指導を賜ることができました。

ハワード教授はどういう物事であれ、必ず歴史的な視点を押さえてその広がりを見るという、英国の国際関係論のやり方をずっと貫いていらした。ハワード教授のもとで学べたことがやはり僕にとっては非常に大きい収穫だったと思います。

-オックスフォードでの経験が防衛庁に帰ってきてからどのように活きましたか?

一言で言うと自信がついたっていうことかな。当時の国際関係論の教授に「ノリはunique studentだ」と言われて、「はー、それは面白い言い方だな」と思ったんです。良い意味であれ、悪い意味であれ、ともかく他と違う切り口を持っているという点での評価をいただけたことが、一つ自信につながりました。

それからもう一つは、2年間しゃかりきになって一つ論文を書き上げたこと。その時に、親しい日本人も数人できて、そのネットワークはその後ずっと活きているし、それも含めて自信につながりました。大学を出て留学するまではやはり自分に対する自信がなかったんです。でも、留学した2年間で、自分が持っているもので勝負できるなっていう確信に変わった。それが一番大きいと思います。

西次官が学んだオックスフォード大学、トリニティー・カレッジ