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警察内部の不祥事を摘発する嫌われ者「ヒトイチ」 
その目線から描き出される警察組織とは?

インタビュー「書いたのは私です」濱嘉之
photo Getty Images

人事一課、通称「ヒトイチ」にはエリートが集まる

—警察出身者であり、これまで数々の警察小説を手掛けてきた濱さん。今作の主人公に据えたのが警視庁の人事一課、通称「ヒトイチ」の監察係長です。警察官の不祥事を摘発する「監察」を描いた作品はあまりありませんが、どういう意図があったのですか。

私が所属した公安部もそうですが、身内である警察官から忌み嫌われているのが監察です。しかし、警察官の不祥事が頻発する中で、警察組織がなんとか均衡を保っていられるのは彼らの存在があるから。その監察に陽を当ててみようと考えたのが、今作を書いた動機です。

警察官の非行がはびこれば、真面目な警察官が市民から白眼視され、組織全体も歪んでいきます。そこで監察は独自調査や、内部告発で発覚する警察官の非行をいち早く摘発し、組織の膿を出していく。これも警察の一面。

そういう特殊部隊である監察を扱った作品には、刑事部や公安部とはまた違う面白さが生まれるのではと思ったんです。

—主人公・榎本博史は、ノンキャリアながらエリート中のエリートで、頭が切れ、職務に忠実な警察官として描かれています。実際のヒトイチを背負っているのも、こうした人物なのでしょうか。

監察の約半数は、公安部からピックアップされた優秀な人間ですから、私の同僚や同期から何人も行っています。じつは榎本は、そうした同期の一人がモデルなんです。

その男は、私が現場でドタバタしている間に出世コースを驀進していきました(笑)。誰からも好かれ、上層部にも非常に頼りにされる。実際にそんなエリートが数年に一度は現れるんですよね。

私自身には、ヒトイチの経験はありません。人事一課はノンキャリでも選りすぐりのエリートしか行けない部署。行きたくても行けなかったというのが本当のところです。

同じ警察官でもポジションによって感覚が違う

—今作もそうですが、濱さんの作品は警察組織の力関係や警察官の思考に、圧倒的なリアリティを感じさせます。警察小説であると同時に、警察組織を知るうえでの優れた資料にもなっています。

警察組織のディテールだけは、絶対に崩さないようにということは心がけています。警察内部の人間が読んだときに「これはないよ」と思われたらダメだと。

また、同じ警察官でもセクションごと、ポジションごとでその感覚は全く違います。

たとえば、第一章では三田村という新宿署の組対課(組織犯罪対策課)のベテラン刑事が登場しますが、彼の捜査感覚は、目の前の事件現場を重視する、刑事が持つ「シマ社会」のそれ。国家を第一に考える公安の感覚とは違うし、警察組織を第一に考えるヒトイチのそれとも違う。そういう感覚の違いも、誤りがないよう丁寧に書いたつもりです。