読書人の雑誌『本』
原発労働者たちの素顔を知っていますか?
彼らはどんな人で、何を感じ、
原発に対して、社会に対して何を思っているのだろう

photo Getty Images

つながること

(文・寺尾紗穂)

ピアノの弾き語りをしている。3月に『楕円の夢』というアルバムを出した。私はこの『楕円の夢』リリース全国ツアーを、路上生活を経験したおじさんたちで作る舞踏グループ「ソケリッサ」と回りたかった。

ソケリッサのメンバーは4人。

1人はリーダーのアオキさんで、彼だけは元々プロの振付家・ダンサーで路上生活経験はない。SMAPの振り付けなど華々しい世界で活躍していたが、ある日路上で弾き語る若者の横で尻を出して寝ているホームレスを見て、こういうおじさんの表現が見たい、と強く思ったという。

アオキさんが、ホームレス自立支援のためのストリートマガジン「ビッグイシュー」の販売員たちに呼びかけて結成されたのがソケリッサだ。メンバーは、新宿西口で現役路上生活を営むコイソさんのほか、ビッグイシュー販売を経て、生活保護やバイトで暮らすイトウさんとヨコウチさんで、週2~3回練習に励んでいる。

彼らの踊りはとても不思議だ。初めて見たとき、人間が死んだあとの魂の舞を見ているようにも思えたし、不器用な自分自身を見ているような気持ちにもなった。

そこに、鍛え抜かれた肉体や息を吞むような技はない。けれど、人が生きる、ということを見る者に直に訴えかけてくる力があり、ソケリッサの踊りを体感した人の多くは、「不思議な涙が流れる」と目を潤ませて答えてくれる。

私自身、実際に見るまでは、おじさんたちが踊るということでコミカルなイメージを持っていた。あるいは、つらい経験を経てきた人たちだから、それで感動する踊りになるのかな、という安直な想像しかできなかった。

けれどそんな想像をあっさり裏切られた。

おじさんたちの踊りは1人ひとり違っていて、手をあげる、とか、回転する、という1つの動作をとっても、バラバラだった。けれど1人ひとりは懸命で、ただ、それだけのことが胸を打った。

実はソケリッサには、コシザワさんという練習嫌いで競馬狂のメンバーもいて、たまにステージに立つと、いかにもペテン師然とした風貌で、何度も回転しては笑わせてくれるのだが、ソケリッサを見ていると、表現とは、限られた人のものではなく、すべての人の手のひらにあるものだ、と感じるのだ。

ソケリッサに、私の全国ツアーに同行してもらうには、少なくとも彼らの交通費と宿泊費をまかなえるお金がなければならない。そこで、1ヵ月間クラウドファンディングで寄付を募ったところ、目標の200万円を大きく上回る額を集めることができた。

こうして、初回の福島公演に続く熊本公演が先日あった。福島のお客さんは、静かに熱く拍手を下さったのが印象的だったが、熊本は全く違っていた。

ソケリッサの踊りに、涙し、熱い拍手をくれる途中までは、福島とそれほど変わらなかったが、後半からアンコールにかけて熱気がぐんぐん高まり、アンコールの「アジアの汗」という曲ではお客さんたちがソケリッサに合流して踊りまくり、会場が沸き立った。

2回目のアンコールでは、「夕まぐれ」というしっとりと孤独を歌う静かな曲だったにもかかわらず、これにもお客さんが合流して笑いが起こり、私まで笑いをこらえて歌う始末だった。