企業・経営
カギは「目利き力」。なぜ銀行員は「倒産寸前会社」の粉飾テクニックに騙されるのか?
文/中村宏之

ⓒ iStock./Getty Images

「目利き力=事業性評価」の大切さが今、問われています。「目利き力」とは、将来の成長が期待できて、今後伸びる会社を見出し、一方で経営が傾き、存続が怪しくなっている会社を見抜く力の両方を意味します。

企業の信用調査を長年行っている帝国データバンクは、豊富な倒産取材の経験から「目利き力」の大切さを長年指摘していますが、このほど、帝国データバンクが長年蓄積した取材データに、読売新聞記者による独自取材を加えて、『御社の寿命 あなたの将来は「目利き力」で決まる!』(中公新書ラクレ)を出版しました。

どの会社が本当に伸びる会社なのか、逆に消えゆく運命の会社なのか、投資家や消費者にとってそれを見極めることは大切です。いま金融庁や経済産業省など政府機関も、「目利き力」の重要性に注目しています。少子高齢化の進展で今後、人口が減少してゆく中、日本経済全体が堅実に成長する仕組みを作る必要があるからです。

「目利き力」に何が必要なのかを考える時、まずは銀行にゆきあたります。お金をどんな会社に貸せば成長が見込めるのか、あるいはどんな会社には貸してはいけないのかなど、日々の仕事の中で銀行はその重要性に直面しているからです。

会社が倒産する理由や事情はいろいろありますが、業績が悪化して資金繰りに困るというのが最も多い理由です。

多くの企業は、銀行や地元の信用金庫などから資金を借りていますが、決算書類などをごまかしたり、あるいはまた借り入れ状況などを適切に報告しなかったりして、多額のお金を借りた末に倒産し、銀行も融資した資金を回収できずに損失を被るなどのケースはあとをたちません。銀行には、そうしたことを防ぐための「目利き力」を身につけることが重要ですが、なかなか難しいのが実情です。

複数の帳簿使ってごまかし

2012年、九州地区のパンやケーキなどを製造するA社が破産しました。この会社は、積極的な企業の合併・買収(M&A)を繰り返して業容を拡大していました。しかし、M&Aや工場増設のための借入金が年間売上高の約半分を占めるまで膨らんだほか、原材料価格の高騰や個人消費の低迷で資金繰りが急速に悪化し、裁判所に破産を申請したのです。

経営破綻後にわかったことですが、この会社は決算を粉飾し、複数の帳簿を作って多くの銀行からお金を借りていました。しかし銀行側は気付かず、他の銀行の動きを見ながら横並びで融資していました。

ただ、この会社にお金を貸していたある地銀の支店長が唯一、この会社の経営に異変を感じていました。きっかけはある店舗の開店セレモニーでの「発見」でした。

店に届いたお祝いの花輪の送り主をチェックしていたこの支店長は、知らない銀行からいくつもの花輪が届いているのに気付きます。

異変を感じた支店長が調査を始めたところ、この会社にはこれまで名前が明らかになっていなかった複数の金融機関がお金を貸していることがわかりました。この会社に不信感を抱いた支店長は、自行の融資を少しずつ回収し始めますが、それでも破産までには間に合いませんでした。

この会社には、それ以外にも変わった兆候があり、取引銀行の担当者には、必ず事前にアポイントをとってくるように言い渡していました。つまり、会社への出入りで他の銀行マン同士が決して顔を合わさないように、周到に会社側が警戒していたのです。銀行同士で情報交換されることを恐れたのです。

こうしたところに多くの銀行が異変を感じていたら、展開は変わっていたかもしれません。

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