ブルーバックス
『数学ロングトレイル「大学への数学」に挑戦』
じっくり着実に理解を深める
山下光雄=著

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時間をかけて楽しみながら
問題にアプローチ

 数学はよく山登りにたとえられます。本書は本格的な登山(現代数学)ではなく、高校数学を基本とした丘陵歩きが目的です。とはいえ、最初はきついかもしれませんが、ペースとコツさえつかめれば最後まで読み通せて、また次の頂に挑戦したくなる、そんな珠玉の問題満載の一冊です。

 いまだからできる、マイペースで学べるたどり着けなかった知の頂に再挑戦。


はしがき

 この本は『大学への数学』という雑誌におよそ10年にわたって散発的に書いた内容をまとめたものである。私にとって書くことは楽なことではないから,全部を一気に書けと言われたらとてもこのような形に仕ヒがらなかったろう。

 この十数年,古代から近代に至る数学の歴史に興味をもって内外の書物に接してきたが,そこで思い知らされたのは.公理論的といわれる現代の「数学」も仕掛けは大がかりで目新しくなっているが,古代より受け継がれてきた方法と問題意識の延長線上にあり,人類の培ってきた文化と切り離しては存在しえないということであった。受験雑誌だから大学入試で出題された問題を横糸に,自分のそんな思いを縦糸にして1年に2~3本ずつ書いていった。歴史的には有名できわめて面白いが, 一般にはあまり知られていない「数学」もある。それらを結い上げ,そこにある素敵なアイデアと洗練された手法を明らかにしたい。自分のそんなアンテナにひっかかってくる問題を選んでポツポツ展開していった。材料にした一流大学の入試問題は良く練られていて,教科書の表層をただ計算を複雑にし小難しい問題に仕立てただけのものは少なく,逆に「問題」に触発されてふくらんでいったテーマもあった。それらを改変し細部を改め,関連する章を組み合せて“部立て仕様”にしたものが本書である。プロローグ「数学的帰納法」,第1部「数の列とそれによる近似」,第2部「不等式による評価」,第3部「ベクトルと1次結合」,……。誰もが扱う内容のようでもあるが,一歩踏み込んで見ていただくと、古の数学者たちの仕業(考え,工夫したことと,その成果)を追体験しつつ良質の入試問題も解くという意図を読み取っていただけるかと思う。ただし,内容の判断は読者の鑑識眼にゆだねるしかないが。

 数学をすることは,よく山登りにたとえられる。この本は,本格的な登山(現代数学)の本ではなく,高校数学沿線の駅からたどる,丘陵歩きの本である。そのためにはどういう装備で, どういうトレーニングをすればよいか,そしてどの道をたどればどんな丘に行け,そこにはどういういわれ(伝説)があるか,それらを読者と共に時間をかけてじっくり散策しようとする本であり,ロングトレイルと名付けた所以である。初めの3つの章までは本書の根幹なので,まず先に続けて読んでいただきたい。後は輿の趣くまま途中下車して,周囲の景観を愛で,問題にアプローチする方法などを実地に楽しんで下さるとよい。

 丘陵歩きとはいえ,本書は数学をちゃんとやった本であるから,易しい本ではない。しかし高校の数学を一通り学んだ者には全部読み通せるはずである。数学書を読んでいくと,初めの2~3章は易しく書かれているが,途中から急に難しくなって投げ出さざるを得なくなることが多い。私自身そんな経験はしょっちゅうだ。自分はパカではないから,理路整然と順を追って書かれていれば絶対に理解できるはずだとの確信を持って読んでいるのに,突然ついていけなくなる。書き手が初めと同じ調子で書いてくれていないのだ。読み手の側に立つのでなく,突然書き手の都合で自分の理解レベルを押し付けてくる。たまったものではない。この本は,高校の教科書の内容を前提として,そこに書かれていることは説明なしに使っている。しかしそれ以上のことは前提としていないから,高校卒業程度の素養で最後まで読み通すことができる。そこにある数学的イメージを頭に描き,時には図を書いたり計算したりしながらじっくり読んでいく。初めは面倒かもしれないがそのうち慣れてきて,だんだんスピードも上がってくるはず。受験生なら自分の使った教科書を,大人なら子供さんのものをちょっと借り,それらを傍らにおいて,自分の知識を確認しつつ読み進めていってほしい。ただし,「行列」と「複素数平面」は,指導要領の改訂(ほほ10年毎)の度に出入りが激しく,今回の改訂では「行列」が外されることになった。2015年度からの大学初年生は,大学で初めて「行列」を学ぶことになる。本書で「行列」を使用している部分は,高校生なら“そんなものか,なかなか便利そうなものだな”くらいに思って読み進めていけばよい。第13章の前半に簡単なまとめがある。

 ピアニストのアンドラーシュ・シフがいつか語っていた。「若者に『成功する鍵は?』と聞かれるが,キャリアという概念は美しくない。一番大切なのは音楽を愛する気持ちです。何かを表現したいという思いがあれば,それはいつか必ず伝わる。学校での教育はプロを育てるだけでなく,裾野を広げ,理解する力・聴く心・愛しむ気持ちを幅広く育む役割を担う」

 この小著がその一助になればと思う。

「再入門本」に飽き足らない年配の方,数式なしの「啓蒙本」はもうごめんだというかつて理系であった大人の方,受験勉強のヒントを得たいという気鋭の高校生,そんな高校生に話題を提供したいという若き教師の方,そのような方にとって得られるものが多くあればと願う。

著者 山下光雄(やました・みつお) 
一九四八年、愛知県田原市に生まれる。一九七二年、名古屋大学理学部数学科卒業。愛知県の東邦高等学校、神奈川県立相模原高等学校、大和西高等学校教諭などを歴任。二〇〇六年より桐蔭学園高等学校講師。二〇一四年三月に退職し、現在は数学関連の書籍の執筆に励む。著書に『対話でたどる円の幾何』(オーム社 二〇一三年)。
『 数学ロングトレイル
 「大学への数学」に挑戦 』

じっくり着実に理解を深める

山下光雄=著

発行年月日: 2015/06/20
ページ数: 352
シリーズ通巻番号: B1921

定価:本体  1180円(税別)
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(前書きおよび著者情報は初版刊行時点のものです)