リーマンショックの痛手を忘れ、いまだ投機熱に浮かれる日本人に問う「金を稼げば幸せなのか?」

真山仁・著『ハゲタカIV グリード』文庫版で登場

現代の必読書『ハゲタカ』が放つその魅力

2004年の発表以来、単行本・文庫あわせて累計190万部超を数えている人気シリーズ「ハゲタカ」。その最新刊にあたる『グリード』が、このほど文庫化された。作家・真山仁氏の壮大な構想、緻密な取材にもとづく同作の魅力を、書評家・末國善己氏が解説する。

▼▼『ハゲタカIV グリード』著者・真山仁のインタビューはこちら▼▼
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/43756

* * *

 真山仁が喝破する「現実世界の現実」

文・末國善己(書評家)

2004年、アメリカで企業買収を学び、バブル崩壊後の不況に苦しむ日本に乗り込み、日本を買い叩くと豪語する鷲津政彦を主人公にした『ハゲタカ』が刊行された。

おりしも2004年は、破綻した日本長期信用銀行を安く買収した外資系の投資組合が、新生銀行として改称した銀行を東証一部に上場させ、多額の利益を上げたことが報じられ、日本の国富を奪う外資系の投資企業、いわゆる“ハゲタカ”ファンドへの批判が高まっていた。日本人が恐れる外資ファンドの実態に迫った『ハゲタカ』がシリーズ化され、ベストセラーになったのは、時代が求めた作品だったからなのである。

「ハゲタカ」シリーズは、徹底した取材に定評のある著者が企業買収の裏側をリアルに描いている。また、あらゆる人脈、手段を使って情報を集め、それを的確に分析して先手を打ち、苦境に陥っても感情を表出さず沈着冷静に対処する鷲津のスタイルは、そのままビジネスの教科書として使えるほどだが、シリーズは単なる経済小説、金融小説ではない。

金設けのためなら手段を選ばない鷲津は、悪漢小説のヒーローそのものである。敵対する投資のプロが、相手を出し抜くために陰謀、謀略を駆使する展開はコンゲーム(騙し合い)で、ラストのどんでん返しには読者も騙されるのではないだろうか。強権を使って追い落としを図る大企業や国家を相手に、鷲津が頭脳と胆力を武器に戦うところは冒険小説に近い。誤解を恐れずに言えば、「ハゲタカ」シリーズは、経済問題を踏まえた重厚な国際謀略小説であり、周到に張りめぐらされた伏線から驚愕の真相を導き出す秀逸なミステリー小説でもあるのだ。

著者自身、これまでのインタビューで、冴えない風貌ながら頭脳明晰な鷲津は、ブライアン・フリーマントルが生んだスパイ、チャーリー・マフィンを意識して作ったと語っている。そのため、経済小説と思って敬遠しているミステリーファンにこそ読んでほしい。

『ハゲタカ外伝 スパイラル』ダイヤモンド社から7月6日に刊行!
税別価格:1500円
Amazonはこちら

シリーズ第一作の『ハゲタカ』では、経営不振に苦しむミカドホテルの現状を経営者一族の松平貴子の視点で描きつつ、投資ファンドの鷲津が三葉銀行の芝野健夫と不良債権の一括売却をめぐり対立。さらに鷲津は、太陽製菓の買収にも手を伸ばす。第二作の『ハゲタカII』では、鷲津が明治時代に創業された鈴紡と曙電機の買収に乗り出し、両社の最高事業再構築責任者に任じられた芝野と再びあいまみえることになる。

第一作では非上場企業の買収が中心だったが、第二作では国と一体となって日本の資本主義の発展を支えた老舗企業(というより一種の“政商”だろう)の買収を題材にしているだけに、鷲津への妨害工作も熾烈を極めている。シリーズ第三作『レッドゾーン』では、莫大な資金力を誇る中国の国家ファンド(CIC)が、日本最大の自動車会社アカマに買収を仕掛け、鷲津はアカマに支援を求められる。アメリカが決めた投資のルールなど平然と黙殺する“赤い資本主義”=中国の国家ファンドは、賀一華を先鋒に、常識では考えられない方法で攻撃を仕掛けてくる。

『ハゲタカIV グリード』
(上)Amazonはこちら
(下)Amazonはこちら

このように、シリーズは一作ごとにスケールアップしているが、キリスト教の“七つの大罪”の一つ「強欲」をタイトルにしたシリーズ第四作『グリード』では、鷲津が、サブプライムローンの破綻で経済が低迷するアメリカに対して牙を剥くことになる。

優良客(プライム)よりも下の層に住宅ローンを貸し出すサブプライムローンは、債権が証券化され世界中の投資家に販売され、アメリカの住宅価格の上昇を背景に格付け会社はこれらの証券に高い評価を与えた。ところが2007年夏頃から住宅価格が下落。サブプライムローンが組み込まれた債権は、軒並み信用を失ってしまう。この余波によって、大手投資銀行グループのリーマン・ブラザーズは破綻に追い込まれた。

日本では、1990年に当時の大蔵省が不動産向け融資を抑制する総量規制を出したことで土地価格が急落し、これがバブル崩壊に繋がった。鷲津は、バブル崩壊に苦しむ日本にやってきて、時価総額が下落した日本企業を買い叩いた。