安保法制は合憲?アリバイ作りまでして官邸に媚びを売る報道ステーション
古賀茂明「改革はするが戦争はしない」フォーラム4 Vol.006 「日本再生のために」より
〔PHOTO〕gettyimages

論評に値しない政府の合憲論はマスコミの腰抜け振りを見切ってのもの

(略)安倍政権は、今回の安保法制が合憲であるという見解を明らかにした。

その内容は、砂川判決を集団的自衛権を認める根拠だとしているなど、ほとんど論評にも値しない内容だ。

菅官房長官は、記者会見で「まったく違憲でないという著名な憲法学者もたくさんいる」と言ったそうだ。しかし、具体的な名前は挙げられなかった。その後、国会で著名な学者の名前を挙げろと言われて3名しか挙げられず、最後は「数ではない」などと居直って、国民の失笑をかってしまった。もちろん、菅氏の発言は、最初から真っ赤な嘘だが、実は、こんな発言を堂々とできるということは極めて重要なことを示している。

何故なら、この期に及んでも、なお、今回の安保法制は合憲であるというだけでなく、多くの著名な憲法学者が合憲論を唱えているという嘘八百を言っても、マスコミはそのこと自体を批判しないだろうと安倍政権が読んでいるということだ。

案の定、今のところ、菅発言が嘘だったということはネット上では結構流布されているが、それと同じくらい合憲論も拡散している。新聞やテレビも、真っ向から菅発言が嘘だとは言わない。これだけの嘘がまかり通る国も珍しいのではないか。

9日の報道ステーションでは面白いことが起きた。おそらく心あるスタッフがやったのだろうが、憲法学者(判例百選という憲法を学ぶものにとってはバイブルになるような本の中に憲法の主要なテーマごとに短い解説文を多くの学者が書いているのだが、そこに選ばれている学者を100人程度選んだらしい)へのアンケート中間報告というビデオを流した。50人の回答を得たところで、合憲論はわずかに1人だったのだ。50分の1しか認めない論理なのだから、その結果だけを報道すればよかった。「やはり、政府の合憲論は全くの異分子一人だけでしたね。しかも、全く名前も聞いたことのない学者さんですね。やっぱり違憲だということがはっきりしちゃいましたね。廃案にしてもらうしかないでしょうね」で終わりのはずなのだ。

しかし、ビデオでは、その合憲論者の意見をわざわざ時間を割いて紹介した。いかにも偏った編集である。しかも、ナレーションでは、違憲論者が45人、意見の疑いがあると答えた者4人とさらっと紹介したあと、合憲論者一人と紹介すべきところに、わざわざ、「あくまで中間集計だが」とか、「今のところ一人」などといちいち余計なナレーションを入れる気の遣い方だ。つまり、今は一人だが、中間集計だから、最終的にはまだまだ増えるかもしれませんというニュアンスをいれているのだ。しかも、違憲論の紹介は約2分25秒程度、合憲論の紹介では、デタラメの合憲論と政府の言い分の紹介に1分近くを費やした。45対1の差を2,5対1まで縮小して合憲論を厚遇したのである。

こういう細かいところは、一般の視聴者にはわからないかもしれないが、ビデオを作ったあと、デスクやプロデューサーや古館氏などがチェックをする。そういう手順を知った上で、ビデオの長さやナレーションやテロップの一言一句を見て行けば、何が起きているかは大体想像できるのだ。どこかで、官邸に気を遣ってナレーションに余計な一言を入れた人がいるのだろう。あるいは、ビデオを作った人が、自粛ムードに飲まれて自ら入れてしまったのか。

「合憲論が一人だけいました、終わり」だけでは、安倍政権に怒られるかもしれない、何とかフォローするにはどうしたらよいかということで考え出した苦しいビデオとナレーション。その腰の引け具合は、まあ、ご愛嬌と思っていたら、さらに驚いたことが起きた。古館伊知郎氏が、合憲論の学者が言っていることをさらに30秒もかけて補足して紹介したのだ。これだけの特別扱いをする理由は何か。まさに、合憲論もあるということをしっかり紹介しましたよ、という官邸に対するアリバイ作りをナレーションだけではなく、古館氏自らがしっかり演じて官邸に媚を売る。あるいは、早河テレ朝会長に媚を売っているのかもしれない。そう思ってしまった。

その後、レギュラーコメンテーターの朝日新聞論説副主幹・立野純二氏が、「法治主義への反逆だ」などと明確な批判を展開したことで何とかバランスが取れてきたと思ったら、最後の古館氏の締めのコメントでその全てが吹っ飛んでしまった。

「とにかく時間をかけるべきじゃないでしょうかね。このことに関してはね。」

おそらく、このビデオを作ったスタッフは天を仰いだことだろう。それじゃあ、結局政府の思う壺じゃないか。時間をかけるべき話なのか。違憲の法案を延々と審議して、結局通すという政府の思惑通りだろう。本来は、「これだけ違憲論が明確になっている以上、この法案は廃案にして、もう一度考え直して欲しいですね」くらいのことは言えないのか。
ちなみに、こんな面白い憲法アンケートがあるのに、この日のニュース項目の並びは、まず、京浜東北線の事故、次に高一生殺害事件、北海道の自動車事故、さらに年金情報漏洩事件と続き、憲法論議は5番目だった。

その5番目のニュース項目が終わった瞬間、それは、完全にバラエティ化した報道ステーションの限界がはっきり見えた瞬間でもあった。

これで終わろうと思っていたが、ビデオの最後を見落としていたことに気づいた。スポーツも終わってのエンディングでの古館氏とスポーツキャスターとのやり取り。

「僕も楽屋で本番前に、放送前に妄想オンエアというのをやりますよ。こう来たらこういうふうに文句言われてまた怒られちゃうから、こういうコメントでかわさなきゃいけない。こっちからはまたいろいろ言われたらいけないから、その間を抜けていかなきゃ、ってやっているうちに本番でしゃべれなくなっちゃうじゃないですか」「それってダメじゃないですか」「ダメですよ・・・。明日頑張ってやってみます」End

これは決して冗談ではない。まさに本音を冗談めかして吐露したのだ。

安倍政権はどうやっても安保法制の今国会通過を狙うつもりだ

ところで、これほどまでに違憲論が広く知られて完全に包囲されたように見えるが、安倍政権は、このまま突っ走るつもりだ。

前述の菅官房長官の発言はまさにマスコミと国民を完全に馬鹿にしたものだ。

どうせ国民は何も判断できない。合憲だと与党が言い続ければ、マスコミは、合憲論も流す。流さなかったら、圧力をかければ良い。それを数週間続ければ、国民は判断がつかなくなって、迷い始める。あとは、時間をかけてやりました、中国がどんどん出てきますよ、などと脅して最後は採決して行くつもりだ。すでに、憲法学者が国民の命と幸せを守ってくれるんですか、などと違憲か合憲かは関係ないという論理展開も狙っているように見える。

マスコミが騒がなければ、野党の批判も尻すぼみになるという読みもある。
要するに、何が起きても本法案の成立を強行してくることは確実だ。
それに対抗する手段は何か。
結局世論しかない。世論が動けば、マスコミも動き、野党も動く。
逆に私たちが動かなければ、このまま安倍政権の暴走は止まらないだろう。・・・(以下略)

古賀茂明「改革はするが戦争はしない」フォーラム4(2015年6月12日配信)より

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