「反知性主義」の安倍政権が大多数の国民に不幸をもたらす 佐藤優・著『知性とはなにか』

佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」Vol.062 読書ノートより

●佐藤優『知性とは何か』祥伝社新書、2015年6月

知性主義との対抗を意図して本書を書いた。本書の問題意識と射程が明確になっているまえがきとあとがきを引用しておく。

<はじめに

現下の日本も世界も危機的状況にある。テロや暴力に訴えることによってでも、単一のシャリーア(イスラム法)のみが支配するカリフ帝国(イスラム帝国)を建設しようとする「イスラム国」(IS)の策動が活性化している。中国やロシアは、既存の国際秩序を一方的に変更しようとしている。

米国は、依然として、世界一の軍事大国かつ経済大国であるが、その影響力には翳りがでている。国際経済にしても、一応、米ドルを基軸とする管理通貨制度下にあるが、ヒト、モノ、カネが自由に動くグローバリゼーションの中で、国家によるマネー(通貨)の管理には限界が生じている。「管理できない管理通貨制度」というジレンマに、われわれは直面している。

こういう状況で危険なのは、複雑な問題を一気に解決しようとする誘惑だ。「反知性主義」という処方箋を採用して、人間社会の複雑性を無視することで、現下の危機を解決しようとすることが、一見、可能なように見える。

ISをはじめとするイスラム教過激派も、すべての問題が市場原理で解決すると考える新自由主義者も、ウクライナや韓国で台頭する極端なナショナリズムも、反知性主義を反映したものだ。そして、わが日本でも反知性主義の嵐が吹き荒れている。その具体例については、本書で詳しく述べたので、熟読していただきたい。

ここで筆者が言う反知性主義とは、実証性と客観性を軽視もしくは無視して、自分が欲するように世界を理解する態度を指す。反知性主義には、知識をエリートが独占していることに対する異議申し立てという民主主義的側面もある。

十九世紀末から二十世紀初頭に活躍したロシアの哲学者レフ・シェストフ、セルゲイ・ブルガーコフらは、合理主義を反知性主義によって克服しようとした。しかし、シャストフやブルガーコフらの高度な教養と知性を持った人々の反知性主義は、社会に根付かなかった。その代わりに、レーニンやスターリンなど、「われわれに従うことが絶対に正しい」という共産主義イデオロギーを掲げた反知性主義者が社会主義革命を起こし、権力を奪取した。

ソ連型共産主義も、その出発点においては、民主主義を最大限に活用したことを忘れてはならない。反知性主義は、知的エリートの政治に対する批判原理としては、民主的機能を果たすことがあるが、反知性主義者が権力を掌握した場合、大多数の国民に不幸をもたらすと筆者は考える。

本書は、日本の政治が急速に反知性主義化していることに対する危機意識を背景に書かれたものである。反知性主義は、歴史修正主義(特にナチズムに対する再評価)、ナショナリズム、国語力の低下などさまざまな局面で起きている。筆者は、これらの問題を具体的に論じることを通じて、反知性主義がはらんでいる問題を浮き彫りにすることを試みている。

反知性主義に対抗するために重要なのは、知性を復権することだ。それは主に読書によってなされる。本書で、筆者が目標としたのはカトリック思想家の吉満義彦氏(1904~1945年)や哲学者の柄谷行人氏(1941年生まれ)らが、それぞれ異なる知的営為で示した反知性主義から抜け出す言説を、読者にわかりやすく伝えることである。

知性の復権は、優れた先人の業績を解釈もしくは再解釈することによってのみ可能なのである。>(3~5頁)・・・(以下略)

▼このテーマについて深く知るための「連読」3冊
・リチャード・ロービア(宮地健次郎訳)『マッカーシズム』岩波文庫、1984年1月
・佐藤優/斎藤環『反知性主義とファシズム』金曜日、2012年5月
・森本あんり『反知性主義――アメリカが生んだ「熱病」の正体』新潮選書、2015年2月

佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」Vol.062(2015年6月10日配信)より

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