辺野古基地移設問題~翁長沖縄県知事訪米から帰国。沖縄のメディアとそれ以外のメディアの報道にかつてないほどのギャップが広がる
佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」Vol.062 文化放送「くにまるジャパン発言録」より

本コーナーは、佐藤優さんが毎月第一・第三・第五金曜日に出演している文化放送「くにまるジャパン」での発言を紹介します。今回は6月5日放送分をお届けします。なお、ラジオでの発言を文字にするにあたり、読みやすいように修正を加えている部分もあります。野村邦丸(のむら・くにまる)氏は番組パーソナリティ、伊藤佳子(いとう・よしこ)氏は金曜日担当のパートナーです。

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深読みジャパン

〔PHOTO〕gettyimages

・・・(略)

邦丸: 翁長雄志(おなが・たけし)沖縄県知事が今日(※6月5日)、アメリカからお帰りになるということなんですけれども、アメリカに行かれてアメリカの議会あるいは行政当局の方々、いろいろな方々とお会いしたなかで、これは佐藤さんが寄稿されていることなんですが、東京のいわゆる全国紙は、比較的アメリカ側は翁長訪米をクールに、冷淡に受け止めたと伝えています。一方、沖縄タイムスや琉球新報は違う受け止め方をしている。要するに、名は取らなかったが実は取ったよというニュアンスのところは、今回あったんでしょうか。

佐藤: まず、全国紙と沖縄の報道でズレている――同行しているわけだから同じ情報を持っているんですけれど――のは、「ハワイ」なんですよ。ハワイがどういうところなのかという認識の違いですね。

ハワイは沖縄系移民が多いんです。ただし、自分たちは日本人だという意識はないんです。自分たちは沖縄人だという意識はあります。琉球語は覚えていますけれど、日本語は忘れている。そういう人たちなんです。現在のデービッド・イゲ州知事は、ハワイ州のホームページを見ていただくとわかるんですが、「初の沖縄系米国人知事」と書いてあります。ですから、沖縄人のアイデンティティがものすごく強い人なんです。

朝日新聞や読売新聞を読むと、会談は「平行線に終わった」とか「比較的冷淡な感じだった」ということなんですけれど、実際の翁長氏とのやり取りが琉球新報に出ているのを見ると、「会談の前半は交流の話をし、後半は基地の話をした。一つ違うのは、基地問題は州知事の直接的な権限ではない点。だが同じウチナー――沖縄ですね――にルーツを持つ者として、沖縄の今の基地問題の現状をご理解いただきたいと説明した。先方は日米両政府の問題ではあるが、ワシントンDCで頑張ってくださいと」と言っているわけですね。

邦丸: ハワイ州知事が翁長知事に「ワシントンで頑張ってください」と言った。

佐藤: それから、2700人の海兵隊員が沖縄から移駐するということだったら、これは「受け入れたい」と言っています。

さらに、メイジー・ヒロノ上院議員は会談後に、「日本政府の対応に問題があるようだ。もっと沖縄の話を聞くべきだ」と言っているんですよ。トゥルシー・ガバッド下院議員は、「沖縄の言うことはとても理解できる。米議会でも話していきたい」と言っているわけで、少なくともアメリカの国会議員2人が、これを問題にするということを言っているんですね。

これだけでも沖縄は目的を達成できていますよ。ワシントンは、日本政府の手も回っていますから。ただ、国防総省も最初は本部長が会っていたのが途中からレベルを上げましたよね。そういうことで、困ったことになったなと思っている。

ジョセフ・ナイさん(元国務次官補)やアーミテージさん(元国務副長官)も、「別な枠を考えなければいけないかもしれない。日本から提案があったら聞きますよ」ということを言い出しているというのは、「沖縄の抵抗はホンモノだから、安倍政権が言っているようにうまくいくのかな?」と、アタマの中にクエスチョンマークがついたという、ここのところがいちばんの成果ですね。

沖縄のなかでは5月30日、31日に緊急世論調査(琉球新報社と沖縄テレビ放送による)をしたんですね。翁長さんの「辺野古沖の埋立について県の第三者委員会が承認取り消しを提言すれば取り消す」という方針を支持する人が77.2%に上りましたから。

邦丸: 8割にちょっと欠けるぐらいなんですね。すごいですね。

佐藤: 77.2%ということは、皮膚感覚でいうと全員が支持しているという感じですよね。それから世論調査では、沖縄のことは自ら決める「自己決定権」について9割近い人たちが共感を示しているということで、今回の訪米で構造変化が沖縄で起きたということだと思います。

しかも、沖縄のメディアとそれ以外の日本のメディアの間のギャップが、かつてないほどに拡がっている。沖縄の側はぜんぜん追い込まれたとも敗けたとも思わないで、一歩前進させることができたと思っている。

翁長さんはアメリカに行く前の会見で、いったいどういう手法があるんですかと問われ、「10個の手段があります」と、法的な手段が10個あると言っているので、10個の法的な項目で辺野古移設の中止を求めていくと言っている。それに対して中央政府が裁判を起こしていく。それでとりあえず続けるということになって、10本の裁判を抱えることになるわけですね。恐らくその4~5本目のところで、沖縄の不満、沖縄の熱気が高まってきますから、辺野古移設の中止に関する県民投票をやるでしょうね。

邦丸: 翁長知事が。

佐藤: そうです。そうなると、8割に近い「反対」という票が出てくる。それでも強行するということになると、流血が起こり、日本からの分離を求める住民投票につながっていきますね。

ですから今、非常に危ない危険水域に入りつつあると、第三者的に見て思うんです。ところが、東京のメディアのほうはそういうふうになってほしくないし、もうこの辺で終わりにしたいという思いが無意識に働いているから、翁長さんの訪米は大した訪問ではなくて、押し切られて静かになるだろうという希望的観測に基づいて記者たちは記事を書いているんですね。

邦丸: 翁長さんは訪米前に総理官邸に行って、沖縄の民族衣装であるかりゆしウェアを安倍総理に贈って、安倍総理が「今度、閣議で全員で着よう」と言ったけど、一部の反対に遭ってそうはいかなかったという話もありますけれど、なんか翁長さんが総理に対して、「われわれの気持ちは変わらないけれど、でもこれでお互いに門戸を閉ざすのではなくて話し合っていきましょう」ということについては、安倍さんも「そうですね」とおっしゃっている。そして今回、菅官房長官が「翁長さんが訪米されたけれど、結局、辺野古移設は揺るがないという認識をお強めになったんではないですか」ということをおっしゃっている。

佐藤: まったくトンチンカンですね。ですから、こんな感じでしばらくは続くんでしょう。

邦丸: 来週木曜日に菅官房長官に番組にご登場いただくことになっているんですけれど、辺野古移設云々というより、中央政府の沖縄への思いというか、対応というか、これは一貫して本当にクールですよね。これって、私はもっと情で考えたくなる時があるんですけれど、もう少し情熱を持てないのかな。

佐藤: よく知らないんですよ。よく知らないのに準備しないで官房長官になっちゃったからですよ。菅さんは決して悪い人じゃない。ただ、人口1%対99%だと、よほど勉強しないと1%の少数派が何を考えているか、そのオリも心のヒダもわからないんですよ。・・・(以下略)

佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」(2015年6月10日配信)より

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