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緊急取材 伊東社長続投の声もあったが…
ホンダ社長交代でなにが変わるのか!?

会見終了後、ガッチリと握手を交わす伊東孝紳現社長(左)と八郷隆弘新社長。八郷新社長は開発畑の出身ではあるが、研究所社長を経験していない、初の本田技研社長となる

2月23日午後5時。東京・港区南青山のホンダ本社では社長交代の緊急記者会見が行われた。伊東孝紳社長が取締役相談役に退き、八郷隆弘常務執行役員が社長に昇格するもので、6月の定時株主総会後に正式決定する。同日午後3時にホンダから発表され、急遽記者会見が開催されたのだ。

最近のトップ交代人事は、次の社長が登板前に時間をかけてウォーミングアップができるように早い段階から内定するケースも多く、2月時点での発表は時期尚早というわけでもない。それでも、会見直後、知り合いのホンダの幹部社員から1通のCメールが送られてきた。ディスプレイにはわずか3文字で「想定外」と記されていただけでその説明はない。"意味深"のメールだが、社長交代の舞台裏を探れば探るほどそのことが浮かび上がってくる。

その謎解きをすると大きく2つに集約される。まず、第一には、なぜ、伊東社長がこのタイミングで退任を決意したのか。もう一つは、ノーマークの八郷氏を後継社長に大抜擢したのか、である。

続投を匂わせていた伊東社長だったが

リーマンショック後の2009年6月に就任した伊東社長はすでに6年目に入り、本来ならば今年6月には後進に道を譲る"任期満了"を迎える。だが、ハイブリッド車やタカタ製エアバッグなどの一連のリコール問題について「対策を終えるまでは責任を果たす」としながら「道半ばでは辞められない」などと自ら"続投"を匂わせていた。

また、当初は「'14年度の国内販売103万台達成」で花道を飾るつもりだったが、新車投入が大幅に遅れて達成のめどがつかず、しかも昨年10月と今年1月には10万台規模で2度も下方修正した。ようやく発売にこぎつけた新型の「グレイス」や「ジェイド」などの受注も期待するほどではなく、修正後の82万5000台の目標も危うい情勢だ。直近の業績も、'15年3月期にトヨタ自動車やマツダ、富士重工業などの各社が円安の追い風を受けながら過去最高の営業利益を見込むなか、ホンダは減益になる見通しだ。営業利益率も軽自動車が主流のスズキやダイハツよりも低く、株価も弱含みの展開が続いている。

こうした「赤点」だらけの情けない通信簿では「辞めたくても辞められない」のが本音の気持ちだったはずである。伊東氏に近い社員も「もう一期は"留年"を覚悟していた」との見方も強かった。

ところが、次期社長に指名された八郷氏が「年明け、赴任先の中国で直接電話を受けた」と明かしたことからも、早い時期に伊東氏の腹は固まっていたとみられる。世界市場で収益構造が大きく変化するなか、伊東体制では新興国を中心にグローバル生産を強化した。その影響もあり、国内の輸出比率がわずか3%程度に低下し、円安のメリットも少ない。

また、目玉の戦略として打ち出した世界の各地域で生産や販売、開発などの権限を大幅に委譲する「世界6極体制」(日本・北米・南米・欧州・アジアパシフィック・中国)も、日本と欧州が振るわず、中国でも反日感情の影響が尾を引いて回復の兆しは不透明。このまま経営の舵取りを続けても、業績が上向くとはかぎらない。むしろ足を引っ張る地域がさらに増えれば赤字に転落する可能性もある。

世界販売台数を「2016年度に600万台に引き上げる」という壮大な目標は一応棚上げされたものの、すでにその拡大路線に沿って設備投資を行った系列の部品会社も少なくない。伊東体制に対する風当たりは、度重なるリコールの対応に追われる販売店とともに、サプライヤーなどからも一層強まる恐れもある。

経営トップには、危機管理に強いタイプとそうでない人間がいるが、伊東氏の場合は修羅場の少ない出世コースをまっしぐらに進んできたエリート。この先も業績不振が続き傷口が広がれば「引責辞任」という不名誉な烙印を押されかねない。華々しい引退の花道を飾ることはできなかったが、一連のリコール問題にケジメを付ける意味でも「ここらが潮時」と判断したとみられる。

伊東社長は6月以降取締役相談役となるが、影響力を持ち続けるとの見方をする専門家も多い
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