羽生善治の一局のみに集中する姿に超越した思考の片鱗を見た
G2レポート・棋士道・羽生善治(その6)

発売中のノンフィクション雑誌『G2(ジーツー)』第19号に掲載後、大きな反響を呼んだ記事「騎士道 羽生善治」。ルポライター・高川武将が6度のロング・インタビューを通じて「羽生善治の本心に迫ろう」とした、文字どおりの「言葉の対局」です。原稿が予定の80枚を大幅に超える160枚に達したこともあり、誌面に載せきれなかった「後半」をおよそ2週間にわたって随時掲載していきます。棋士とルポライターの真剣勝負をご堪能ください(G2編集部)

▼羽生善治「将棋の神」に極意を質す(その1)~(その5)はこちらからご覧ください
 (その1) => http://gendai.ismedia.jp/articles/-/43587
 (その2) => http://gendai.ismedia.jp/articles/-/43595
 (その3) => http://gendai.ismedia.jp/articles/-/43598
 (その4) => http://gendai.ismedia.jp/articles/-/43661
 (その5) => http://gendai.ismedia.jp/articles/-/43674

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(文・高川武将)

 羽生の前に立ち現われた「二つの世界」

自らに言い聞かせるように、何度もうなづく姿を見て、私は意外に思った。最初のインタビューをしてから5年。抱え続けてきた心の葛藤を、ここまで率直な言葉で聞いたのは初めてだったからだ。やはり、羽生の中で何かが変わっている・・・。

それはこんな二つのやりとりにも表れていた。一つは「狂気の世界」についてである。

――若い頃は「狂気の世界」に入らないとしながら、ある種の憧れに似た気持ちもあったと思いますが、初めて話を聞いたとき「あり得ない」と。まともに日常生活を送るためだけじゃなく、将棋の内容がよくなるからと。狂気の世界に入ってしまえば、むしろ楽になる。周りに理解されなくてもいいとなって。

「まあ、そうでしょうね」

――だから、本当にいい将棋を指していくために、踏みとどまってきたわけですよね。

「そうですね・・・。まあ、どっちでもいいと言えば、どっちでもいいんですけど(笑)」

――どっちでもいい?

「わかりません、それは。どっちがいいかは」

――ああ、どっちがいいかは・・・入ったほうが、いいかも知れない?

「ええ。どっちがいいかはわかりません」

うなづきながらそう言うと、羽生は、しばし沈黙した。

もう一つは、船井、桜井らとの交流についてである。

――船井さんや桜井さんらに求めていたのは、直感や閃き、運や流れをどう掴むかという論理では割り切れない無意識の領域のことですね。基本的に将棋に偶然性は入らないけど、「データやセオリー、経験すらも役立たない場面が必ずある」から。その非合理の領域を合理的に解釈しようとしてきたわけですよね。

「そうですね。でも、それもいろいろ考えたんですけど、結局、自分の経験を元にしてやるのが一番いいと思いました。決して他の人の考え方や発想がダメということじゃないですよ。でも、自分の経験を元に考えるのが一番いい方法のような気がします」

――ああ・・・では、原点に還ったと。

「ああ、そうですね。うん、それは非常に・・・例えば『雀鬼』の桜井さんとは、今もお付き合いはありますけど、桜井さんの言うことを真似しようったって無理なんですよ(笑)。もちろん、参考になることはありますけど。結局は自分の経験しかないのかなと」

――そうなったのは最近ですか。

すると羽生は、涼しげな微笑さえ浮かべて言った。

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