国際情勢の混乱を「ひどい状況」と嘆くのではなく、どう賢く生き延びるかその方法を学べ
副島隆彦×佐藤優の対談本『崩れゆく世界 生き延びる知恵』

佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」Vol.061 読書ノートより

●副島隆彦/佐藤優『崩れゆく世界 生き延びる知恵 国家と権力のウソに騙されない21世紀の読み解き方』 日本文芸社、2015年5月

副島隆彦氏と私の3冊目の対談本だ。副島氏の情勢分析は、インテリジェンスの世界の最悪情勢分析、すなわち所与の条件で想定される最悪の事態を想定した分析の伝統を踏まえている。現下世界の混乱について、副島氏と私の基本認識は近い。

本書を出した戦略的意図については、まえがきに記しておいたので、全文を引用しておく。

<はじめに――激変する国際秩序の構造

2015年に入って、国際秩序の構造が急速に変化している。

まず、指摘できるのが1月7日、フランスで起きた連続テロ事件だ。これは今までのテロ事件とは位相を異にする。イスラム教スンニ派系過激派「イスラム国」(IS)が、全世界に対して、世界イスラム革命の開始を宣言したのだ。

この人たちは、アッラー(神)は、1つなので、それに対応して、地上においても唯一のシャリーア(イスラム法)が適用される単一のカリフ帝国が建設されるべきであるとする。この目的を実現するためには、暴力やテロに訴えることも躊躇しない。

歴史は反復する。しかし、まったく同じ形で繰り返されることはない。

こういうときに重要なのは、アナロジー(analogy、類比)を適用することだ。アナロジーとは、論理(logos)に即して物事を考察するということだ。

約100年前にもイスラム国によく似た運動があった。国際共産主義運動だ。

1917年11月(露暦10月)にロシアで社会主義革命が起きた。この革命は、マルクス主義に基づいてなされた。

マルクスは、「プロレタリアート(労働者階級)に祖国はない」と言った。国家を廃絶し、プロレタリアートによる単一の共産主義社会を形成するのがマルクス主義の目標だった。

マルクスは、社会主義革命は進んだ資本主義国で起きると考えた。

しかし、実際に革命が起きたのは後発資本主義国のロシア帝国においてだった。ロシア革命に続いてドイツとハンガリーで革命が起きたが、当局によって直ちに鎮圧されてしまった。そこで、ロシアの共産主義者は、独自の戦略を考えた。

ソビエト・ロシア国家(1922年からはソ連)は、国際法を遵守し、他の資本主義諸国と安定した関係を構築する。

他方、1919年にコミンテルン(共産主義インターナショナル、国際共産党)を結成し、資本主義体制を転覆し、世界革命を実現するというシナリオだ。

コミンテルンは本部をモスクワに置いたが、ソ連とは無関係とされた。コミンテルンの公用語は、ロシア語ではなく、ドイツ語だった。

各国の共産党は、国際共産党の支部と位置づけられた。日本共産党は、国際共産党日本支部だったのである。

当初、レーニンやトロツキーは、コミンテルンを通じて本気で世界革命を起こそうとしていた。

しかし、1930年代にスターリンが権力を掌握すると、世界革命の実現よりも、ソ連国家の強化に力を入れる一国社会主義路線を取るようになった。

それでも、資本主義諸国に「弱い環」ができるとソ連は、革命の輸出を試みた。キューバ、南イエメン、アンゴラなどがソ連型社会主義体制を目指すようになったのがその例だ。
1991年12月のソ連崩壊によって、資本主義陣営対社会主義陣営というブロック間対立の時代は終わった。

その後、世界はグローバル化し、アメリカの一極支配による新自由主義が席捲した。

しかし、アメリカの勝利は一時的なものだった。

アメリカが危機に陥ることをいち早く予測したのが、本書の共著者である副島隆彦(そえじま・たかひこ)氏だ。副島氏が、2009年9月のリーマン・ショックを半年も前に予測した。この時点でリーマン・ブラザーズという固有名詞をあげて、アメリカの金融危機が到来することを予測したのは(私が知る範囲では)、副島氏だけだ。

副島氏は、黒人の血を引くオバマ氏が大統領になることも早くから予測していた。


ユダヤ教、キリスト教には、預言者という人たちがいる。

ところで、日本語の発音が同じなので、預言者と予言者がよく混同される。予言者は、未来を予測する人であるのにすぎないのに対して、預言者は、神から預かった言葉を人びとに伝える人だ。

その中に、未来予測も含まれるが、預言者のメッセージの中心となるのは、「崩れゆく世界の現実を見よ」との警鐘だ。

イスラム国に対抗するために、アメリカのオバマ政権はイランと手を組もうとしている。イスラム国には、内ゲバ体質があり、アメリカ、イスラエル、西欧などの非イスラム諸国を打倒する前に、イスラムを騙る反革命であるシーア派(特に12イマーム派のイラン)を殲滅しなくてはならないと考えている。それだから、イランにとって、イスラム国を封じ込めることが死活的に重要な課題になっている。

アメリカは「敵の敵は味方である」という単純な論理でイランと手を握ろうとしている。
そして、今年4月5日、米英仏露中独とイランの間で、イランの核問題に関する枠組みの合意がなされたが、これは将来、イランが核兵器を保有することを認める危険な合意だ。

イランが核を持てば、まず、パキスタンにある核兵器がサウジアラビアに移転し、他のアラブ諸国もパキスタンから核を購入するか、自力で核開発を行ない、核不拡散体制が崩壊する。世界は実際に崩れ始めているのだ。

もっとも、「ひどい状況だ」と言って嘆いているだけでは、われわれは生き延びることができない。反知性主義の上であぐらをかいている安倍政権に期待しても無駄であることには多くの人びとが気づいている。

生き延びるためにわれわれがしなくてはならないのは、一人ひとりが力を付け、「人間の隣には人間がいる」ということを信じて、社会の力を強化することだ。

その点でも、リバータリアンの副島氏から生き延びる知恵について学ぶべきことがたくさんある。

2015年4月26日、沖縄県名護市にて  佐藤優>

このテーマについて深く知るための「連読」2冊
・副島隆彦『税金官僚から逃がせ隠せ個人資産』幻冬舎、2013年10月
・ブレット・スティーブンス(藤原朝子訳)
 『撤退するアメリカと「無秩序」の世紀 そして世界の警察はいなくなった

佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」vol061(2015年5月26日配信)より