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「しくしく痛む」と「きりきり痛む」はどう違う?
日本語表現の決め手になる「擬音語・擬態語」の魅力とは

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擬音語・擬態語の魅力

(文・山口仲美)

2003年に刊行した『暮らしのことば 擬音・擬態語辞典』(講談社)が、このたび『擬音語・擬態語辞典』として、学術文庫の一冊に加えられることになりました。この辞典は、「はしがき」に述べたように、それまで『国語辞典』類でまともに取り扱われてこなかった擬音語(例、ばりばり・ぴーひゃら・ごとん)や擬態語(例、きらきら・ぴくっ・じろり)を真正面から取り上げ、その意味と歴史的な変遷や文化的な背景を解き明かしたものです。

さて、この辞典が対象とした擬音語・擬態語とは、一体どんな魅力を持った言葉なのか? ここで述べたいテーマです。

「真闇な道の傍で、忽ちこけこっこうと云う鶏の声がした。(略)こけこっこうと鶏がまた一声鳴いた」(夏目漱石『夢十夜』)。読者は、けたたましい鶏の声を耳にしたかのように感じます。擬音語は、外界の音や声をできるだけ忠実に再現しようとした言葉なので、聴覚に訴えかける力を持っているためです。

ニタリニタリと笑っている、あの古い物語の恐ろしい妖婆」(江戸川乱歩『屋根裏の散歩者』)と表現されると、声を出さずに薄気味悪く笑っている妖婆の顔が眼前に浮かびます。

「手紙はぶよぶよと、変な手触りだった」(安部公房『砂の女』)も、弾力が無く、気持ちの悪い柔らかな感触が直接読者に伝わってきます。

擬態語は、人や物の様子や状態をいかにもそれらしく再現している言葉なので、視覚・触覚をはじめとする感覚に訴えかけてくるのです。普通の言葉は、こうした感覚性を持っていません。言葉と意味は単なる約束によって結びついているだけです。

その証拠に、擬音語や擬態語を使って表現すると、普通の言葉で表現した時よりも、記憶に残りやすく、効果的だという実験結果も出ています。「風がぴゅーぴゅー吹く」という擬音語を使った文は、「風が強く吹く」という、普通の言葉「強く」を使った文よりも記憶に残ったのです。

また、握力を高めるときに「強く握って」と指導した場合よりも「ぎゅっと握って」と擬態語で指導した場合の方が、握力の数値が高くなったのです。擬音語・擬態語は、普通の言葉とは違って、私たちの感覚にじかに訴えかける力を持っている。これが、第一の魅力です。