脳科学者として知られる茂木健一郎さんが自身の体験を元に描く“100%青春小説”『東京藝大物語』

茂木 健一郎

「人間にとって芸術とはなにか」

これは、大きな命題だ。ルネッサンス期、神が創ったこの世界は、ほぼ完全だが、ただ、何か欠けているところがあって、だからこそ人間は芸術の夢を見る。そのように考えられた。

だからこそ、現代人も、魂を癒すために、芸術を求め続ける。
ところが、芸術の夢は、そう簡単には結実してくれない。東京藝大の油絵科は、倍率が数十倍という難関。それをくぐり抜けた彼らは、当然絵はうまい。それでも、アーティストとして名をなすのは、10年に一人いれば良いほうだという。

ヘタをすれば、東京藝大生の栄光のピークは、難しい入試を通った直後。その後は、芸術の厳しい道。ヘンタイにはなれても、テンサイにはなれない。それでもああ、憧れずにはいられない。

芸術の神さまが微笑む可能性は、限りなく低い。それでも、彼らは、夢を見ずにはいられない。不可能なことを夢見続けることこそ、青春の証しではないだろうか。ウルマンが言うように、青春とは、人生のある時期を言うのではなく、心の様相を指すのだ。

私は、この物語を書かなくてはならなかった。
『東京藝大物語』の中には、現代人が忘れかけている青春の原像がある。青春バンザイ!迷い、夢見る、そんな青春なしで、何の、一度切りの人生か。

この小説で、みなさんの心に、「青春」を処方してください。

(もぎ・けんいちろう 脳科学者)
読書人の雑誌「本」2015年6月号より

茂木健一郎(もぎ・けんいちろう)
1962年東京生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。理学博士。脳科学者。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て現職はソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。専門は脳科学、認知科学であり、「クオリア」(感覚の持つ質感)をキーワードとして脳と心の関係を研究するとともに、文芸評論、美術評論にも取り組んでいる。2005年、『脳と仮想』(新潮社)で第四回小林秀雄賞を受賞。2009年、『今、ここから全ての場所へ』(筑摩書房)で第12回桑原武夫学芸賞を受賞

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茂木健一郎・著
『東京藝大物語』
税別価格:1700円

藝大を出ても、アーティストとして成功できるのは10年に1人といわれる世界で、何者かであろうとあがく学生たちとの交流を、あたたかな眼差しで綴る。
芸術に生きるようとする人たちの葛藤と不器用な戦い。読者に明日の元気をくれる、生の賛歌とも呼ぶべき、「100%の青春小説!」

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