佐藤優のインテリジェンス・レポート「日露関係をめぐる米国の懸念」

佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」Vol.061 インテリジェンス・レポートより
【はじめに】

安倍政権の対ロシア外交は、何を目標としているのかがよくわかりません。外務省内部でも、対米配慮をめぐる温度差から「綱引き」が起きているようです。日露関係、日露関係に対する米国の干渉は、それぞれ別の枠組みで分析したほうがいいと思います。・・・(以下略)

【事実関係】
米国のラッセル国務次官補(東アジア・太平洋担当)は5月21日、ワシントンで記者会見し、「現在の状況では、ロシアと通常の関係を持たないとする原則を守ると信じている」と述べた。

【コメント】
1.―(1)
5月21日、東京で安倍晋三首相とロシアのナルイシキン国家院(下院)議長が会見したことに対して、米国が激しく反発している。

1.―(2)
この会見が行われたわずか数時間後に、ラッセル国務次官補が日本を牽制する発言をした。

<米国のラッセル国務次官補(東アジア・太平洋担当)は21日、ワシントンで会見し、安倍晋三首相がロシアのプーチン大統領訪日の可能性を探っていることなどについて、「現在の状況では、ロシアと通常の関係を持たないとする原則を守ると信じている」と述べ、日本を牽制した。

安倍首相は21日、欧米がウクライナ危機の結果、渡航禁止の制裁を科しているナルイシキン下院議長と東京で面会。首相はプーチン大統領の訪日を求めたとみられ、オバマ政権はこうした安倍政権の動きに強い警戒感を持っている。

ケリー米国務長官が12日にロシア南部ソチを訪問し、プーチン大統領と会談したことで、米国もロシアと対話を模索しているとの見方も一部にあった。これに対し、ラッセル氏は「停戦合意の実現に向けロシアが責任を果たすよう、意思決定できる人と直接話す緊急の問題があったからだ」と説明。ウクライナ問題を話し合うことと通常の二国間関係を持つことは全く異なるとし、「日本は(米国が対話を模索していると)誤解していないと思う」と語った。>(5月22日 朝日新聞デジタル)

1.―(3)
ラッセル国務次官補の発言は、外交チャネルによる日本政府の説明を受けずに、報道をもとに行われたものである。このように同盟国の国務省高官が、相手国の公式の説明を受けるよりも前に相手国を牽制する発言をすることは珍しい。日米の信頼関係の水準が実際のところ、少なくともロシアをめぐる問題については、それほど高くないことをうかがわせるものである。

2.―(1)
米国務省の反発に対する日本政府の対応は、対露外交については日本の独自性を滲ませる内容になっている。

<対ロシア外交を米政府高官から牽制されたことについて、菅義偉官房長官は22日の記者会見で「日ロは隣国。政治対話を継続して我が国の国益に資するように進めていく」と強調。ウクライナ問題では主要7ヵ国(G7)との連携重視の方針に変わりはないと前置きしたうえで、北方領土問題を抱える日本の実情に理解を求めた。

21日の安倍晋三首相とロシアのナルイシキン下院議長との面会が決まったのは、前日の夜。外務省を中心に政府内には慎重な意見が根強かった。

安倍首相は、北方領土交渉の進展に向けて、年内のプーチン大統領の訪日は不可欠と考える。4月末の日米首脳会談では、オバマ大統領にも対ロ外交を進める考えを伝えた。オバマ氏からは慎重な対応を求められたが、「対話を断ち切るのは生産的な姿勢とは思わない」(外務省幹部)との方針で、プーチン氏の訪日に向けた環境整備を進める。>(5月23日 朝日新聞デジタル)

2.―(2)
首相官邸は、ロシアに対する米国の忌避反応を過小評価している。・・・(以下略)

佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」Vol.061(2015年5月27日配信)より