佐藤優のインテリジェンスレポート「ナルイシキン露国家院(下院)議長と安倍首相の会見」

佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」Vol.061 インテリジェンス・レポートより
【はじめに】

安倍政権の対ロシア外交は、何を目標としているのかがよくわかりません。外務省内部でも、対米配慮をめぐる温度差から「綱引き」が起きているようです。日露関係、日露関係に対する米国の干渉は、それぞれ別の枠組みで分析したほうがいいと思います。・・・(以下略)
ナルイシキン露国家院(下院)議長---〔PHOTO〕gettyimages

【事実関係】
5月21日昼、安倍晋三首相とナルイシキン露国家院(下院)議長が東京都内のホテルで15分間(日本側発表、ロシア側によれば50分間)、会見した。

【コメント】
1.―(1)
ナルイシキン議長はプーチン露大統領の側近である。欧米はウクライナ問題に関連し、ナルイシキン氏に渡航制限を科している。

1.―(2)
ロシア側はナルイシキン議長と安倍首相の会談を強く要請したが、日本外務省が対米配慮から慎重論を唱えたため、両者の会見はいったんは見送られた。

しかし、ロシアと独自の人脈を持つ森喜朗元首相、鈴木宗男元北海道沖縄開発庁長官の働きかけによって、5月20日夜、急遽、翌21日昼に安倍首相との会見を実施することが決定した。外務省内には対米配慮から慎重論が根強かったが、最終的には首相官邸の意向に従うことになった。

ロシア側もこの経緯を知っているので、「安倍首相は、政治主導で対露関係を改善しようとしている」というメッセージをクレムリン(ロシア大統領府)に伝えることになった。

1.―(3)
日本側は本件会談を秘密にせず、菅義偉官房長官が5月21日夕刻の記者会見で明らかにした。

<菅義偉(すが・よしひで)官房長官は同日の記者会見で、首相がナルイシキン氏からプーチン大統領のメッセージを口頭で受け取ったことを明らかにした。ただ会談の内容を含めて詳細の説明は避けた。

菅氏は、日本政府が目指すプーチン氏の年内の来日に関して「やりとりしていない」と述べたが、ナルイシキン氏はプーチン氏の来日実現に向け、ウクライナ問題に伴う対露制裁の解除を求めた可能性がある。>(5月21日 産経ニュース)

1.―(4)
米国のオバマ政権は、「日本の対露政策が生温い」と苛立っている。このような状況で安倍首相がナルイシキン議長と会うことには、かなりのリスクを伴う。

2.―(1)
ナルイシキン議長は、マスメディアを通じて日本に明確なメッセージを伝えている。

<ナルイシキン氏はプーチン氏の側近とされる。

ナルイシキン氏は都内で開かれた「日本・ロシアフォーラム」での講演などで、プーチン氏の来日について「ロシアには用意があるが、実現にはパートナー(の日本)の支援が必要だ。ボールは日本側にある」と述べた。日本の対露制裁に関しては「続ければ続けるほど日露関係に与える損害は大きくなる。このような政策は終わりにすべきだ」と指摘し、解除の必要性を強調した。>(5月21日 産経ニュース)

ナルイシキン議長は日本に、プーチン大統領訪日の条件を“直球”で投げてきた。すなわち、日本がウクライナ問題をめぐってG7と共同歩調を取って行っている対露制裁を解除することが、プーチン訪日が年内に実現するための条件なのである。

2.―(3)
これに対する日本側の対応は、以下のとおりである。

<一方、安倍首相は同日、「日本・ロシアフォーラム」にメッセージを寄せ、「戦後70年を経ていまだ実現していない北方領土問題の解決と平和条約の締結は、私が最も重視する課題だ。対話を重ねながら、条約締結交渉に粘り強く取り組む」と、領土問題解決への決意を表明した。

岸田文雄外相もメッセージを寄せ、ロシア側がプーチン氏の来日の前提と位置付ける自身の訪露について「全体の状況を見つつ、検討していきたい。そのための環境が早期に整うことを願う」と述べた。>(5月21日 産経ニュース)

安倍首相や岸田外相は、日本はG7との共同歩調を取り、ウクライナ問題をめぐってロシアに制裁をかけつつ、同時にロシアとも良好な関係を維持しようとしている。日本が実質的な対露制裁を行っていないこともあり、これまでロシアは日本の曖昧戦術を受け入れていた。・・・・・・(以下略)

佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」Vol.061(2015年5月27日配信)より