週刊現代
わからない動機、わからない未来
『週刊現代』魚住昭の誌上デモ「わき道をゆく」第128回

〔PHOTO〕gettyimages

15日の朝日新聞に興味深い記事が載っていた。麻生太郎財務相が自派の所属議員たちの前で話したエピソードである。
麻生氏は、安保法制について「皆さん方(=議員)の奥様に『この問題で全然地元で説明できない』と言われた」という。
当初、国会議員を差し向け説明させようとしたが、都合が悪くなり、安保法制を作った専門家中の専門家である内閣官房副長官補が代わりに説明した。
ところが奥様の反応は「全然わからなかった」だそうだ。

笑えない話である。安保法制は自衛隊員やわが子の命にかかわる問題だ。それなのに、実は私もわからない。こんなことではいかんと思い、週末に丸一日かけて各紙の解説や法案の条文を読み直してみた。でも、よく理解できない。

なぜだろう? 11もの法案を一度に出されて頭がこんがらかったせいか。それもあるが、それだけじゃない。もっと深い理由があるはずだ。私はちがう角度からアプローチすることにした。

翌日、図書館から安倍首相の著作4冊を借りて片っ端から読んでみた。すると、わからない理由がだんだんわかってきた。
結論を先に言うと、新聞が伝える安保法制は入口も出口もない迷宮のようなものだ。安倍首相がこの法制を作ろうとする動機(=入口)と、法制で日本はどう変わるかという結果(=出口)が捉えられていない。

新しい国へ 美しい国へ 完全版』(文春新書・'13年刊)に、その入口が書かれていた。

安倍首相は〈戦後日本の枠組みは、憲法はもちろん、教育方針の根幹である教育基本法まで、占領時代につくられた〉と言う。
そのうえで〈連合軍の最初の意図は、日本が二度と列強として台頭することのないよう、その手足を縛ることにあった。/国の骨格は、日本国民自らの手で、白地からつくりださなければならない。そうしてこそはじめて、真の独立が回復できる〉
と語る。これが、第一次安倍政権時代から彼の唱える「戦後レジームからの脱却」だ。

では、なぜ、そう考えるようになったのか。その理由を知るうえで欠かせないのは、第一章「わたしの原点」に記された彼の'70年安保体験だろう。

高校時代、授業中に担当の教師が'70年を機に安保条約を破棄すべきだという立場で話をした。〈クラスの雰囲気も似たようなものだった。名指しこそしないが、批判の矛先はどうもこちらに向いているようだった〉

彼はそれに反論するため教師にこう質問した。「新条約には経済条項もあります。そこには日米間の経済協力がうたわれていますが、どう思いますか」

〈すると、先生の顔色がサッと変わった。《岸信介の孫だから、安保の条文をきっと読んでいるに違いない。へたなことはいえないな》―そう思ったのか、不愉快な顔をして、話題をほかに変えてしまった〉という。