田村耕太郎さん【後編】 「ASEAN6億人、インドと中国を入れて30億人の巨大市場をどう考えるか、です」

『アジア・シフトのすすめ』著者に訊く
[左]藤野英人さん [右]著者の田村耕太郎さん

【前編】はこちらをご覧ください。

根無し草がマジョリティになる時代

藤野 そもそも、田村さんがアジアをベースに世界を考えるようになったきっかけは何だったんですか?

田村 まず何と言っても、子供のおかげですね。3歳になったばかりというところですが、この子に残してあげられるのは教育くらいだなと思って。この子が大学を出て就職するころ、つまり2035年くらいの世界を予測して、逆算して、その時代にふさわしい教育を与えてやろうと思ったんです。ところが・・・20年後なんてまったくわからない。

藤野 わからないですよねえ。

田村 どの国がどうなっているのか、明言できないことばかりで。それだったら、どこの国でも対応できるような力をつけさせてあげたくて、シンガポールで英語と中国語、そして多様性に囲まれた環境をと思ったんです。だから、この本は自分の子供のことを考えて、未来を考えて、アジアを考えて書きました。

藤野 なるほど、そういうことなんですね。この対談を読んでいる方にもぜひ田村さんのFacebookをフォローしてほしいですね。ときどき娘さんや教育のことを書かれていて、あれを見ると考えさせられるんですよ。なんというか、毎日マルチカルチャーの中でがんばっているのは娘さんですが、それ以上に、親である田村さんがたくさんのことを学んでいるように見えて・・・。

田村 あはは、そうなんですよ。僕、性格的に、自分はオタクじゃないだろうと思っていたんですけど・・・最近、「いや、オタクかもしれない」と思うようになりました。ふと気づくと、娘と教育のことばかり考えている。親を集めてディスカッションしたり、自然と学校に足が向いて、娘に煙たがられたり(笑)。勉強という意識もないくらい楽しいんですよね。

藤野 何がそんなに楽しいんですか?
 

シンガポール発 最新事情から説く アジア・シフトのすすめ』
著者= 田村耕太郎
PHPビジネス新書 / 定価983円(税込み)

◎内容紹介◎

アジアの中心・シンガポールに居を移した筆者は、まずは豊富なデータを用いて日本の近未来を予測。その内容は悲観的ともいえるが、同時に「実は日本は相変わらず運が強い」ことも説く。なぜなら、日本のそばには世界最大の成長エンジンであるアジアがあるからだ。日本にもアジアにも「いいところ」と「課題」がある。両者の長所と短所を冷静に把握したうえで、アジアの熱風を感じつつ、時代に合った形でアジアの活力を取り入れる――そのための最高の素材として本書を活用してもらいたい。 日本でこれから起きようとしていること。アジアで今、起こっていること。読めば、これから勝負すべき舞台が見えてくる!

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田村 娘のクラスは15人いるんですけど、国籍が12種類もあるんですよ。しかも、娘以外は全員ハーフ。お父さんとお母さんの人種・国籍が違います。もっといえば、お母さんもお父さんもおじいさんもおばあさんもハーフやクォーターだったりする。純粋に一つの人種からできているのは私たち夫婦と娘くらいで、その点を自己紹介で話した時、絶滅危惧種のように「ワォ!」と反応されました。世界観も様々で、必然的にいろいろな言葉が飛び交う、まさに「マジョリティのない世界」なんです。

藤野 へえ! 日本では考えられない状況ですね。

田村 だから、いじめが少ないのだと思います。「みんなと違う」の「みんな」がないから、誰をいじめていいかわからないんです。「根無し草」がマジョリティなんです。

藤野 そうか、そうなると「いじめの構造」が適応されないのか。

田村 逆に、向こうは私たちに関心があるみたいです。両親がともに日本人で、かつ日本で育ったという単一文化の家族なんて、本当に、まるで絶滅危惧種を見るかのような目で見られます。しっかりした文化的バックボーンがあることが羨ましい、とも言われます。親もコミュニティも文化がバラバラだと、祝日や祭りひとつとってもどれを祝うか、家族で別々だそうです。

藤野 日本で言う「アイデンティティ・クライシス」をとうに飛び越えている感じがしますね。

田村 今はまだ少数派に思えるそういう子供たちが、これからの世界中で核になっていくというのが面白くないですか? 根無し草カルチャーが普通の世界で、チャンスを見つけながら仕事をつくって、家族をつくって、住む場所を変えていく。そんなこと、今まで考えたこともなかった。だから、最高に面白いんですよ。

藤野 では、田村さんはお子さんにもグローバルに活躍してほしい?

田村 私がレールを敷くのではなく、娘には娘の人生を選んでほしいですね。もちろん日本にずっといたいという選択肢もありでしょう。ただ、小さいころからこういう人々や文化と触れ合っていたら、私とはまったく違うものの見方ができるようになるだろう、と思います。娘の教育を通して、毎日が発見ばかりです。

藤野 発見が楽しいという気持ちは伝わってきます(笑)。

田村 今、幼児教育に関してはオタク以上かもしれないですね(笑)。

藤野 そうそう、田村さんは、公の場に奥様やお子さんを連れてこられるじゃないですか。海外だと普通のことですが、日本だとまだ珍しいことです。日本人は、根本的にビジネスを公私混同で行うのが苦手なんでしょうね。なんといったって、「公私混同」は正真正銘の悪口ですから。家族を大事にする文化は海外のほうが強いのかな、と思います。

田村 それに、「イクメン」という言葉自体、海外にはありませんしね。僕も日本人ですから、「上司がいるからなかんか帰れない」という気持ちはよくわかります。けれど、海外の人たちは「子供とプールに行きたい」「家族と食事をとりたい」という気持ちを原動力にして短時間で成果を出すんです。自分で仕事時間をコントロールできるからこそ、家族を優先できるのかもしれません。

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