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健康診断の「コレステロール基準値」はこんなにいい加減

「コレステロール値」の嘘 第2部

「とりあえず」の基準って?

血液検査でコレステロール濃度が「基準値」を超えていた場合、動脈硬化のリスクがあるため、まず食事や運動などの生活習慣の指導をすることがガイドラインで定められている。だが、第1部で述べたように、食事を制限しても血中のコレステロール値にはほとんど影響がないことが明らかになった。

それでは、そもそも健康診断で定められている「コレステロールの基準値」はどんな意味を持つのだろうか。

 

「私は、学会が出しているガイドラインや基準値は基本的に信用していません。コレステロールの基準値についても、果たして適正なのか、厳格に守らなければならないものなのか、疑問に感じています」

新潟大学名誉教授の岡田正彦医師はこう話す。

日本動脈硬化学会が発表している最新のガイドライン('12年版)では、血中のLDLコレステロール値が140mg/dℓ以上であれば「高LDLコレステロール血症」と診断される。この基準値は、循環器内科医をはじめ、日本でもっとも多くの医師が参考にしている値である。

だが、昨年4月に日本人間ドック学会は、血圧や血糖値などについて新たな基準値を発表している。これは、150万人を対象にした調査結果からはじきだされたもの。従来の基準値より緩やかになったことで混乱を招き、大きな話題となったのを記憶している人も多いだろう。

それによると、コレステロールの基準値は、男性が178mg/dℓ。女性は年代別に基準値が分かれており、30~44歳では152mg/dℓ、45~64歳では183mg/dℓ、65~80歳では190mg/dℓ。血圧や血糖値だけでなく、コレステロール値においても、すべて動脈硬化学会の基準値より緩いものになった。

いったい、現在広く使われている140mg/dℓという基準値は、どのように決められたものなのか。岡田医師が解説する。

「日本動脈硬化学会が定めている基準値は、血中のLDLコレステロール濃度が高ければ高いほど心筋梗塞による死亡率が高いという研究結果に基づいていますが、その決め方に明確な根拠はありません。

ある値を少しでも超えたら病気になるというものではないはずですから、国際的な取り決めで、とりあえず、『エイ、ヤッ』と決めたものが140という基準値。それをそのまま日本でも使っているというわけです」

健康診断を受ける側にとってみれば、基準値を超えるか否かは、「患者」になるかならないかのきわめて重要なボーダーライン。それが、実際には何の根拠もなく「なんとなく」決められたものだったとは—。

米国では撤廃された

以前は、海外の学会のガイドラインでも、LDLコレステロールは140mg/dℓが基準値とされていたが、米国では、すでにその基準値は撤廃されているという。名古屋市立大学名誉教授の奥山治美氏が言う。

「米国で'13年に発表されたガイドラインでは、『(基準値を設けることは)根拠がなかったので放棄する』と明確に書いてあります」

日本で当たり前に使われている基準値は、すでに時代遅れとなっているのだ。

そもそも、基準値を作るもととなった「血中のLDLコレステロール濃度が高ければ高いほど、心筋梗塞による死亡率が高い」という研究データ自体にも問題があるとの指摘もある。

「もとになった研究の調査対象には、『家族性高コレステロール血症』の方が含まれています。家族性高コレステロール血症は、生まれつきコレステロール値が高い遺伝性の病気。この患者は、心筋梗塞で亡くなるリスクが、そうでない人に比べて10倍以上も高いのです。

家族性高コレステロール血症の人を除くと、コレステロール値と心筋梗塞の死亡率の関係はほぼ完全になくなります」(富山大学名誉教授・元日本脂質栄養学会理事長/浜崎智仁医師)

つまり、この基準値は、遺伝性の疾患を抱えていない人にとってはほとんど意味のない数値ということになる。