二宮清純レポート「監督の甥っ子」から「真のエース」へ 菅野智之 25歳巨人投手 遠回りしたから、今がある(上)

日ハムに指名されたあの日。菅野はサラブレッドとして敷かれたレールから一度外れ、初めて自分の頭で悩み抜いた。そして決めた、浪人という道。あの一年があるからこそ、男の投球は深く、重い。

MVPには満足していない

どちらが武蔵で、どちらが小次郎かはいざ知らず、まるで巌流島の戦いである。2人の投げ合いは対決というより、決闘に近い。なにしろ、1点の失点が命取りになるのだから……。

巨人・菅野智之vs.広島・前田健太。今季3度目の決闘の舞台は5月12日、東京ドーム。台風6号が転じた温帯低気圧の影響で、東京は強風と大雨に見舞われていた。

過去2度の対戦は1勝1敗。ともに1点を失ったほうが負けている。

このゲーム、先に点を失ったのは菅野のほうだった。6回表、1死一塁の場面で抜けたフォークを広島のライネル・ロサリオに中堅フェンスまで運ばれた。

しかし、7回裏、マエケンが乱れた。1死一塁で中日から戦力外通告を受けてやってきた堂上剛裕に同点二塁打を浴び、さらに2死一、三塁の場面、まさかのワイルドピッチで勝ち越されてしまったのだ。

結局、このゲーム、2対1で巨人が勝ち、広島の連勝は6で止まった。菅野は7回1失点の好投で4勝目(4敗)をあげた。

スターターの第一の役目は「試合をつくる」ことである。しかし、相手が日本を代表するピッチャーとなれば、話は別だ。

「1点もやらないという気持ちで投げている」

常々、菅野はそう語っていた。

1点もやらないとは、すなわち1球の失投も許されないことを意味する。それがエースの宿命とはいえ、マウンド上での重圧は、いかばかりか。

昨季、菅野は入団2年目でセ・リーグのMVPに輝いた。12勝5敗、防御率2・33。素晴らしい成績には違いないが、MVP投手の数字としては物足りなさが残った。

それは本人も承知だ。「たぶん消去法で選ばれたんじゃないですか」と言って苦笑を浮かべ、続けた。

「もちろん(MVPは)光栄なことだとは思っています。しかし、いいシーズンだったとは思わない。どうせ、もらうんだったら、もっとちゃんとしたかたちでもらいたかった。それが正直な気持ちですね」

菅野が浮かない表情で話したのには理由がある。昨年7月16日の東京ヤクルト戦で菅野は右手の中指にダメージを負った。