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<追悼>霞が関のスーパーエリート、財務省トップは執念の人「がん再発」香川俊介(事務次官)の選択と闘い
週刊現代 プロフィール

「増税の黒幕」と呼ばれて

だが、必死の説得工作は実を結ばなかった。安倍総理は、

「田中(主計局長)ちゃんには悪いけど、今の経済状況で再増税なんて考えられない」

と財務省を突き放し、10%への引き上げを1年半後ろ倒しにすることを決断。そのことの信を問うという大義名分で、衆議院を解散してしまう。大勝を収めた自民党が「安倍一強」色に染まり、安倍総理が権勢をほしいままにしているのは周知のとおりだ。

「消費税10%の延期が香川氏にとって大誤算だったのは確かです。香川次官以下、財務省幹部は徹底的に抵抗しましたが、援軍として期待していた、3党合意の当事者である谷垣禎一幹事長や自民党税調幹部が軒並みあっさりと総理の軍門に降ってしまった。彼らに対して、『一度増税を決めた、政治家としての矜持はどこにいったのか』と呆れ果てていました」(前出・有力OB)

そもそも、財務省は将来の財政再建を御旗に掲げ、消費増税なくしては国家財政が成り立たないと警鐘を乱打してきた。彼らの論理では10%でさえ、財政再建はおぼつかないのだという。財務省がここまで消費増税にこだわるのはなぜか。

前出の経済部デスクが解説する。

「財務省の力の源泉は、詰まるところ、予算の差配です。だからこそ、予算を握る主計局が大きな顔をしていられる。逆に言うと、財政を改善して予算を差配できる余地を握っていないと、永田町や霞が関への影響力がなくなってしまうという危機感が常にあります。

『増税の黒幕』と非難されようと、財務官僚にとっては『予算配分の権限を広げる歳入拡大こそが至上命題』。今回の消費増税の道筋をつけた勝氏が『財務省の天皇』とまで呼ばれたのはそのためで、その下で実務を担った香川氏の評価が高いのも同じ理由です。そして財務省内では、将来的には10%以上の消費税にすることは既定路線です」

香川氏はアベノミクスの先行きについても懐疑的だ。日銀の異次元金融緩和がいつか破綻し、長期金利の急騰につながるのではないかとの危機感を抱いている。

「香川氏をはじめ、われわれ財務官僚からすれば、『人口減少が進む日本で、おカネを刷ってバラ撒くだけで経済成長を実現できる』と主張する、安倍総理取り巻きの『リフレ派』は脳天気なバカか詐欺師に見えます。財務省財務官出身の日銀総裁、黒田東彦氏(70歳・'67年入省)は、それを百も承知で円安・株高誘導のために異次元緩和の奇襲に打って出たのです」(前出・中堅幹部)

当初、安倍総理と黒田氏は蜜月と見られ、「アベクロ」と財務省は対立しているかに見えた。だが、実際はそうではない。財務省は、日銀の異次元緩和はあくまでも株価を上げて景気回復を演出し、消費増税を実現するための手段だと見なしている。これが景気回復につながるとは、ハナから考えていないのだ。