佐藤優がインテリジェンス機関の元幹部から得た「中東の構造変化に関する専門家の見方」(2015年4月)

佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」Vol.060 インテリジェンス・レポートより
インテリジェエンス機関は、互いに情報を紙にして交換することがあります。そういうときには、情報源の氏名や情報入手日は記しません。(佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」Vol.055【はじめに】より)

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情報源:インテリジェンス機関の元幹部
信頼度:信頼できる
情報入手時期:2015年4月末

【コメント】
1.―(1)
現在の中東情勢に関して、近未来の情勢分析は不可能である。情勢を抜本的に変化させる変数が多くなり過ぎているからだ。現下の中東情勢に関する分析が可能であると主張するインテリジェンス機関があるとすれば、その機関は嘘つきか、あるいはインテリジェンス機関としての最低基準にも達していないレベルの素人集団ということにほかならない。

1.―(2)
現下の中東情勢に大きな影響を与えるのは以下の4つの要因である。

イ.米軍撤退後のイラクにおける諸勢力の力関係
ロ.「アラブの春」後の政治、社会情勢の展開
ハ.過激なイスラム主義の影響力拡大
ニ.「イスラム国」を名乗る過激派組織(ISILやアルカイダ)とも異なる数百に及ぶ新たなイスラム過激派のテロ組織の誕生

2.―(1)
「アラブの春」によってチュニジア、エジプト、リビア、イラク、イエメンの政治体制が打倒された。しかし、その後、エジプトを除いて安定した体制は構築されていない。

2.―(2)
エジプトに関しても、シナイ半島は内乱状態にある。

2.―(3)
シリアのアサド政権は、イランの援助によってかろうじて生き延びているにすぎない。

2.―(4)
「アラブの春」の結果、イスラム教の政治性が強まったが、そのことがアラブ諸国での民主主義推進にはつながっていない。むしろ、イスラムの政治性が強まるにつれて、民主化の機会が失われている。

3.―(1)
アラブ諸国の弱体化に伴い、外部からアラビア半島に与える影響力が強まっている。具体的にはイランとトルコだ。この2ヵ国は、過去に帝国だったという記憶を甦らせることによって、拡張主義的政策を取っている。

3.―(2)
イランはテロ活動を継続している。米国はイランの行動を非難することはあっても、直接かかわり合いを持つことを避けようとしている。米国は弱体化し、東西冷戦終結直後のように世界を一極支配することはできない。もっとも、米国に対抗できる国家はひとつもない。
このような状況だから、情勢分析が不可能になっている。

4.―(1)
ひと昔前までは、中東における中心的な柱となる問題は、「イスラエル・パレスチナ戦争」と「イランの核開発」であった。

4.―(2)
しかし、現在は何が中東における中心的な問題であるかを断定することができない。例えば、米国とイランは対ISILでは連携しているが、対シリア、イエメンでは本格的に対立している。一方では協力、一方では本格的に対立している状況で、米・イラン関係がどうなっているかを一言で説明することはできない。

5.―(1)
現在、中東域内で影響力を拡大しているのがシーア派だ。イランの域内での影響力が強まっているからだ。その結果、レバノンではヒズボラの地位が向上している。

5.―(2)
スンニー穏健派のエジプト、ヨルダン、サウジアラビアを含む湾岸諸国は、基本的に欧米諸国との協調路線を維持している。ただし、欧米諸国の影響力が相対的に低下している。・・・(以下略)

佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」Vol.060(2015年5月13日配信)より