G2レポート 55歳女子の婚活 Vol.02~「女」としての市場価値がリーマンショック並みに大暴落していたことに気づき落ち込む
本記事は5月22日発売の『G2(ジーツー)Vol.19』に収録しています。その一部を数回に分けて現代ビジネスでも掲載します。

目指したのはアメリカの雑誌界の最高峰――
「ザ・ニューヨーカー」
『G2(ジーツー) Vol.19』
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「恋よふたたび」(その1)はこちらからお読みください
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「恋よふたたび」
55歳・バツ2オンナのガチンコ婚活記(その2)

 

あしたのために 2―漁場を間違えるな

「うわお! 面白い、絶対、面白いよ、これ! アドバイザーとして適任かどうかはわかりませんが、ひと肌もふた肌も脱ぎますってば」

快く、私の婚活アドバイザーになってくださった、新潮社の中瀬ゆかりさんは(講談社の企画であるにもかかわらず)寛大にもこう言った。

「モテないって嘆いているのって、要するに“漁場”を間違えているんだよね。それって、自分がエサにならないところを泳いでるんだよ。自分のことを、好物だという魚がいるところを泳がないと・・・・・・。間違っても、30代女子のところに並んじゃダメなの」

髪をサイドでお団子にまとめ、イヤリングにマニキュアと中瀬さんの女子力はかなり高い。かつて相当にモテたと噂で聞いた。さすがだなーと見ほれてしまう。
中瀬さんは〈50代女・婚活の鉄則〉を、ずばりと射抜いた。

「とにかく、漁場を間違えてはいけないってこと。自分たちの漁場で、正しく活動する。漁場がなければ、作ればいい。エサを撒いておびき寄せればいい」

さすがだ。うなってしまう。
中瀬さんはさらに、こうも言った。

「モテる、モテないって多数決の問題じゃなく、最終的には、たった1人からディープにモテるかなんだから、共産党みたいな女子を目指せばいいんだよ。大多数の男から引かれても、コアに常に支持されているという」

共産党女子、思いもしなかった!

「だから逆に、大票田で勝負する自民党女子になっちゃダメってことだよね。与党になる必要はないけど、手堅く議席を守るという・・・・・・。若い時なら自民党女子でイケイケだったけど、50女に大票田は、残酷だけど、もう、そんなの無理なんだから」

まさに! 私は既に、漁場を間違え、手ひどい目に遭っていた。

初冬の青空が輝いていた。日曜の昼下がりに私が六本木にいること自体、普段の生活からかけ離れ、どうにも現実味がなかった。

かつて書籍の企画で「熟年婚」の取材を始めた時はまだ余裕のアラフォーだったのに、今はとっくに該当年齢。これまで「取材者」という立場で、「お見合いパーティー」を高みの見物していたが、ついに一参加者という「当事者」に、自分がなるのだ。

再婚活パーティーへの参加自体、自ら積極的に打って出たわけではない。取材で知り合った離婚カウンセラーに「婚活を始めた」と伝えたところ、自身が主催する「バツイチ再婚活パーティー」を勧められたわけで、つまり、背中を押されての行動だった。

「黒川さんも出てみれば。だけど黒川さん、歳、いくつだっけ?」

正直に答えたところ、離婚カウンセラーが言葉に詰まった。

「・・・・・・黒川さん、自分が50いくつだって、絶対に言っちゃダメだよ。もっとも、他の人も年齢を言うのはナシなんだけど」

この時のはるかな「間」に、気づくべきだったのだ。

パーティーの参加資格は、バツイチ以上であること。これまで取材で何度となく見てきたお見合いパーティーは、食事の後に一対一で5分ずつのお見合いタイムが設けられ、漏れなく全員と自己紹介をし、最後に意中の人を書いた紙を主催者に渡す。ここで「マッチ」した男女が、交際をスタートさせるというものだった。

おそらく、今日もそういうシステムなのだろう。しかし既に私は、会場に向かう前に絶望していた。駅のトイレで勇気を持って直視した自分の姿に・・・・・・。

久しぶりに、男性の視線を浴びる機会だ。意識しないわけがない。友人から「似合うよ」とほめられたグレーのワンピースをチョイスし、普段より念入りに化粧をして、イヤリングまでつけたというのに・・・・・・、鏡に映る私は、なんてくすんでいるのだろう。“男ナシ16年”という穴倉から地上に出れば、目を覆いたくなる惨状が待っていた。そうだよ、トイレの鏡で自分を直視できなくなって、もうずいぶんになるんだもん。

「何だよ、これ。なんだってこんなに色みや華やかさがなくて地味なのぉぉぉ」

これまで避けてきたこと、知りたくなかったこと。ああ、何を、どうやっても手遅れ。本日、打つ手ナシ。もう、いい、それほど飢えてるわけじゃないし―この期に及んで、まだどこかへ、自分を逃がそうとしていた。

薄暗いパブのような店。番号が付いた名札を渡され、「女九番」の席に座る。女性は壁側、男性はその向かい側。1つのテーブルに女性が3人並んで座る。これがライバルであり、チームだと主催者が説明する。私のチームの女性は、2人とも30代の真ん中ぐらい。ほっそりとして小柄、きれいに化粧して、華やかで美しい。今思えば、私はこの時点で逃げ帰るべきだった。

食事&おしゃべりタイムはなく、最初からお見合い=自己紹介が始まる。女性は動かず、男性チームが3人ずつ、どんどん入れ替わっていく。

会費6500円で、フリードリンク。酒が入ると多分壊れるから、飲み物はウーロン茶にした。テーブルに料理が運ばれてくる。口にしたのはカレー味のピザ一切れ、スモークサーモン三切れ、明太マヨディップで大根とキュウリと人参の野菜スティックを二本ずつ。6500円で、たったこれだけ。やっぱり、お昼を食べてくるべきだった。

自分のことを職業や家族構成以外で紹介するって、難しい。一体、何が残るんだろう、仕事と酒しかなくない? 趣味だってヨガに街や山歩きとか。ああ~、何てつまらない女なんだろう。チームのメンバーはドラムにサンバとやっぱり、ちゃんと華がある。

しょうがないので仕事で居酒屋探訪の記事を書いたとか、そんな情報を小出しにして場を盛り上げる。おまえは、ピエロ? これがチームの女子には大受けで、今度、飲みに行きたいと最後に言われた。違うのよ、目的が。

テーブルに花開くのは、上っ面だけのおしゃべり。15分で男性チームが替わって、また一から自己紹介を始める。

50代前半、大学事務職員だという男性が、私をチラ見して話し出す。後退した前髪がどうにも気になる、地味目の顔立ち。

「学生と食事をすることが多くて、オジサンにはちょっと、きついんですよ。彼らは基本、高カロリー食だから」

食事のことを出してきたのは、私の言葉を意識してのことだろう。だからこっちも、ちょっと家庭的な女ぶりっこをしてみる。

「ごはんは、お出汁からちゃんと取って作ってます。ヘビロテは、ひじきと切り干し大根ですね。どんと、お鉢で出てくる食卓が理想です」

誰が、あなたに作るものかと上から目線でいた私は、予期せぬ強烈なパンチを食らう。

「休日は、古い町並みやお城や遺跡を巡っています。自分、古い建物を見るのが大好きなんですよ」

ここで言葉を区切って、男性は意味深な視線を私に飛ばしてこう言った。

「だから、古い女性も好きなんです」

はああー? 古いって、私のこと? 何、それ? こんなデリカシーのない男を好きになる女性がいるわけがないだろと心で毒づくも、何気ない言葉が突き刺さる。こんなくだらない言葉で、めちゃくちゃ傷つく。

不意打ちのパンチを浴びダウンしたボクサーは、それでも何とか立ち上がる。こっちだって、禿げ上がった「えなりかずき」が「実は、ヘビメタやってます」なんてどうでもいいし、「健診の数値が悪くて、ダイエットしています」なんて、オッサンの近況など聞きたくもないの!

自己紹介も、4回を超えるとつらい。長谷部誠似のハンサムで爽やかな青年もいたけれど、いいなと好感が持てたのは、30代真ん中から40代前半と私よりずっと若い人たちばかり。私の年齢でも脈があると思われるオジサンたちは・・・・・・いいや。生理的にダメな感じ。

私は文字どおり抜け殻になった。盛んに二次会への参加を呼びかけていたけれど、話したい男性は皆無だったので、さっさととっとと店を出て、六本木のどこにも寄らず、まっすぐ駅に向かう。どよよんと落ち込んで、意味もなくどっと疲れて、とにかく家に帰りたかった。休みだからきっと長男が家にいて、ごはん作りに追われれば忘れちゃうからと。

この後、一週間、私は「落ちた」。
何で落ちたか、それは火を見るより明らかだった。16年ぶりに、女という市場に戻ってみれば、市場価値が予想をはるかに超えてリーマンショック並みに大暴落していたのだ。私、もう商品価値が無い? 賞味期限切れ?

曖昧なままにしておき、避けてきた現実が、はっきりと突きつけられた。ああ、ここからの一歩なんだ。くそ、くそ、くそ!
 

・・・以下、次回へつづく(次回の掲載は6月3日を予定しています)

黒川祥子(Kurokawa Shoko)
1959年福島県生まれ。フリーライター。2013年に開高健ノンフィクション賞を受賞(受賞作は『誕生日を知らない女の子』に改題)。今年6月、『子宮頸がんワクチン 副反応と闘う少女とその母たち」(集英社)を刊行予定。

G2(ジーツー) Vol.19
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『G2(ジーツー)』は雑誌・単行本・ネットが三位一体となったノンフィクション新機軸メディアです。今回目指したのは、アメリカの雑誌界の最高峰『ザ・ニューヨーカー』。新しいノンフィクション、新しいジャーナリズムの形を示そうと、『G2』第19号は何から何まで大幅にリニューアルしました。

執筆者/奥野修司 清田麻衣子 黒川祥子 佐々木実 佐藤慶一 柴田悠 高川武将 西村匡史 野地秩嘉 福田健 安田浩一 飯田鉄(順不同)

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