G2レポート 55歳女子の婚活 Vol.01~クリスマスイブ、息子の「サークル飲みだから」という一言が背中を押した

本記事は5月22日発売の『G2(ジーツー)Vol.19』に収録しています。その一部を数回に分けて現代ビジネスでも掲載します。

『G2(ジーツー) Vol.19』(講談社MOOK/税別価格:900円)
▼Amazonはこちら
 =>http://www.amazon.co.jp/dp/4062843692
▼楽天ブックスはこちら
 =>http://books.rakuten.co.jp/rb/13224712/

* * *

55歳・バツ2オンナのガチンコ婚活記
「恋よふたたび」(その1)

 

(文・黒川祥子/ジャーナリスト)

illustration:Shimoda Ayumi

あしたのために 1―まずは再起動

2014年、クリスマスイブ。私は、青物横丁駅近くの薄暗い路地にいた。目の前にあるのは、婚活居酒屋「四万十」の看板。階段を上ればいいだけなのに、なかなか踏ん切りがつかず、さっきから行ったり来たりしている。

イブの夜だというのに、青山でも表参道でもなく、何で私はよりによって青物横丁にいるのだろう。しかも、たった1人で。

「思い切って」、ここにやってきた。清水の舞台から、飛び降りるような思いで。
イブの夜に1人で婚活居酒屋に行く―それが自分にとって何よりの「婚活宣言」となるはずだ。これは自分に命じた滝行なのだ。そこまで追いつめないと、いつまでもぐずぐずと何もしないままの言い訳ばかりを考えてしまう。背水の陣まで追い込まないと何もできない情けなさを、自分でとくとわかっている。奮い立たせるには、カンフル剤が必要なのだ。

と、勇ましく吠えてみたが、実はそこまで潔い話でもない。

「24日の夜は、サークルの飲みだから」

という次男の一言で、私は26の歳で子どもを産んで以来、初めて、イブを1人で過ごさなければならなくなった。子どもたちが小さい頃はごちそうにサンタのプレゼントと忙しかったけれど、「母」として楽しい時間を過ごしてきた。しかし今、そんなのどかな時代は過ぎ去った。そう、過ぎ去ったのだ。

それにしても、イブってみんな忙しい。寂しいから、いろいろ声をかけてみたけれど、誰もがきっちり塞がっている。1人で婚活酒場へ繰り出すのだと意気込んでみたところで、実はそんな消極的理由だったりする。

ではなぜ私は、婚活という市場に参入するのか。しかも、55歳というこの歳で。正直、私には今でもまだ幻想がある。もしかしたらどこかに“胸キュン”や、はたまた“壁ドン”の世界だってあるんじゃないかと。思っていないと言えば? になる。だって中川郁子は56歳で路チューできたではないか。素晴らしい。

一方、こちらはといえば、38歳で離婚してこれまで一切、何も起きていないのだ。男ナシ歴を毎年更新、ついに2015年秋で17年をカウントする。いい加減、現実を直視せねばいけない。

私には離婚時、ひそかに立てた誓いがあった。

「もう、男で問題解決するのはヤメよう」

そもそもどこかに、男性への依存傾向があった。離婚という錯乱した中で、よくこんなまともな思考をしたなと今でも思う。おかげで2人の息子はグレることなく無事、育った。依存傾向もどこかへ行った。離婚時、4歳だった次男は二浪してやっと志望大学に入った。もう、いいだろう、この誓いは。というか、この誓いを立てた時「次男が高校卒業するまで」という期限を確か決めたはずで、とっくに守る必要が無くなっているにもかかわらず、基本、何も起きていない。恋愛どころか、年に1、2回は起きていた「事故」すら、ここ3年は一切ない。ずっと安全運転を続けている。かつて、出会いはそこら辺に転がっていた(ような気がする)。しかし、いつからか、待っているだけでは出会いの片鱗すら、見えてはこなくなっていた。

今までの延長の日々を断ち切らないと、あっという間に“アラ還”になってしまう。そんな恐ろしい事態だけは何としても、どうやっても避けたい。何とかして、そろそろ「女」に戻りたい。16年も忘れていた「女」というものに。

既に子どもは手を離れ、1人で過ごす日曜日、あるいは1人の夜。寂しいなとやっぱり思う。一緒にお酒を飲んだり、温泉に行ったり、そんな自分にとって「特別な」男性がほしい。それが、55歳の素直な思い。

1人で仕事をしていると落ち込んだり、弱気になったり、過呼吸になるほど心が不調になる時がある。子どもに愚痴は言えないし、編集者は「用事」がないと私に会ってくれない。ありのままの思いを受け止めてくれる、寄りかかれる男性がいたら、精神的にどれだけラクだろうって、それが本音。弱った時はことさらに・・・・・・ね。不安定に波立つ心に、「錘」がほしい。支えてくれるパートナーがほしい。心のやわらかな部分には、実はちょっとだけ「オトメ」もいる。普段は、鎧でガチガチに覆っているんだけれど・・・・・・。その鎧も、臆病だからつけているだけなんだけど。

だが、そのためにはただ漠然と願い、待っているだけでは無理なのだと、16年の歳月が冷徹に語る。このまま指をくわえて、「出会い」という幻想を夢見ていたら、何も起こらないまま、ただただ年齢だけが積み上がる。

だから、55歳のクリスマスイブ、私は勇気を振り絞って、婚活居酒屋のドアを開けた。

「婚活? じゃあ、そこに座って」

有無を言わさず、アジア人男性の店員が、私を4人の男性の前に座らせた。

「はい、3000円」

お金を払い2分もしないうちに小皿が3つ、目の前へドカドカと置かれる。カレーライスって、いきなり? 鰹のたたきが数切れ、業務用スーパーに置いてあるような春巻きらしきものとコロッケ。あたたかいのはカレーだけ。カレーも多分、レトルト。わけが分からず戸惑っていると、目の前の男性が教えてくれた。

「食べ物はこれだけ。何も注文できないけれど、お酒は飲み放題だから」

4人は同僚で、40代前半の上司と思われる男性が部下を誘ってやってきたという。
店内を見渡すと壁側に女性が座り、通路側には男性。テーブルそれぞれで、お酒を酌み交わして話している。女性の数が少なく、4人は「壁」を相手に横一列で飲んでいた。だから自動的に、ここに通されたのだ。

ビールで乾杯した。40代は多分、上司だけ。あとの3人は30代半ばが2人、やけに若いと思い、年齢を聞いた菅田将暉似の青年は何と28歳。長男と一緒! いいのー? 私がここにいて。異業種交流会のようななごやかな時間が流れる。だけどまさか、こんな質問を受けるとは・・・・・・。

「自炊、されてるんですか?」

もう28年も前から子どものために毎晩、がっつり作っているよ! と腹の底から出かかるが、にこやかに笑って一言。

「はい」

胸キュンも刺激も何もなかったが、嫌な思いをしなかったことが救いだった。彼らは私を「女として」とまでは行かなくとも、少なくとも「人として」、尊重してくれたから。
実は私の16年ぶりの婚活は、半月前の「バツイチ再婚活パーティー」から始まったのだが、そこで最悪のスタートを切っていた。

・・・・・・以下、次回へつづく。(次回の掲載は2015年6月1日を予定しています)

黒川祥子(Kurokawa Shoko)
1959年福島県生まれ。フリーライター。2013年に開高健ノンフィクション賞を受賞(受賞作は『誕生日を知らない女の子』に改題)。今年6月、『子宮頸がんワクチン 副反応と闘う少女とその母たち」(集英社)を刊行予定。

G2(ジーツー) Vol.19
(講談社MOOK/税別価格:900円)

『G2(ジーツー)』は雑誌・単行本・ネットが三位一体となったノンフィクション新機軸メディアです。今回目指したのは、アメリカの雑誌界の最高峰『ザ・ニューヨーカー』。新しいノンフィクション、新しいジャーナリズムの形を示そうと、『G2』第19号は何から何まで大幅にリニューアルしました。

執筆者/奥野修司 清田麻衣子 黒川祥子 佐々木実 佐藤慶一 柴田悠 高川武将 西村匡史 野地秩嘉 福田健 安田浩一 飯田鉄(順不同)

=> Amazonはこちら
=> 楽天ブックスはこちら

この続きは、プレミアム会員になるとご覧いただけます。
現代ビジネスプレミアム会員になれば、
過去の記事がすべて読み放題!
無料1ヶ月お試しキャンペーン実施中
すでに会員の方はこちら