ノンフィクションを読まない24歳Web編集者がノンフィクション・メディアの未来について考えてみた
本記事は5月22日発売の『G2(ジーツー)Vol.19』に収録しています。その一部を現代ビジネスでも掲載します。

目指したのはアメリカの雑誌界の最高峰――
「ザ・ニューヨーカー」
『G2(ジーツー) Vol.19』
(講談社MOOK/税別価格:900円)

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ジャーナリスト・安田浩一さんとWeb編集者・佐藤慶一さんによる、『G2(ジーツ)Vol.19』刊行特別対談「旧メディアvs.新メディア~これからのメディアの未来(仮)』を後日現代ビジネスに掲載します。こちらもお楽しみに!
(掲載は5月28日を予定しています。)

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ノンフィクション・メディアの問題点

「ノンフィクションって、やっぱりこれからは紙からウェブに移行しなくちゃダメなの?それともこのまま紙媒体で生き残る方法はあるの?」

そんな言葉を聞いたのは3月上旬のことだった。場所は講談社22階の学芸図書出版部、発言の主は、この『G2』第19号を1号だけ編集人を務める青木肇だ。

1966年12月創刊、2009年1月号まで続いた『月刊現代』の後継誌として生まれた『G2』は、19号目となる今号、2015年5月号で休刊する。『月刊現代』は最盛期に36万部以上の発行部数を記録した時代もあったそうだが、2000年代に入ると漸減し、8万部あたりで休刊となった。現在の『G2』は発行部数6000部、実売は3000部ほどだという。休刊に際して、冒頭の大きな問いの答えを求められてこの原稿を書いている。

2009年1月号をもって『月刊現代』は休刊した。

私は1990年生まれの編集者である。講談社のWebメディア「現代ビジネス」編集部に所属しながら、国内外のメディアの最新動向を追うブログ「メディアの輪郭」を更新している。青木はなぜノンフィクションの世界などまったく知らない私に原稿を依頼したのか。そのときのやりとりはおおよそ次のようなものだった。

青木 「今回、『ノンフィクションの未来』というテーマで原稿書いてくれない?」

 「え、私、ノンフィクションについて何も知らないんですけど大丈夫ですか?」

青木 「いや、君は海外のメディア事情に詳しいし、Webメディアの編集者でしょ?未来のノンフィクションの姿は、たぶん君のような、海外のメディア事情やネットに強い人に語ってもらったほうが、いろいろ面白いアイデアが出てくると思うんだよね」

 「う~ん、ノンフィクションは時代についていけてないなぁという印象はなんとなく持っていますけど」

青木 「いきなり厳しいね。でも、何でも好きなことを書いてほしい。『月刊現代』や『G2』のようなノンフィクション雑誌(ノンフィクション・メディア)は、紙媒体としてもまだまだ活動の余地があるのか? あるいはWebの世界で、これまでとは違った形で成立していくのか? はたまた消滅せざるを得ないのか? そのあたりをテーマにして、君なりの答えを出してほしい。もちろん君が出した答えに全面的に賛同することはできないかもしれないけどね。でも、議論は少しぐらい過激なほうが面白いじゃない? 雑誌の役割ってそういうものだと思うし」

雑誌『SPECTATOR』のwebサイト

なんとなくノンフィクションの課題は頭に浮かぶが、自分はそもそも「ノンフィクション誌」について何も知らないため、指摘の精度が下がってしまいそうだ。そこでまずは青木にノンフィクションの世界や現状についてヒアリングする機会をもらった。

「Webメディアやリトルプレス(個人や少人数のグループが、企画・製作・販売を行う小冊子)が好調だという話を聞くたびに焦りを感じるんだよね」と青木は言う。実際、多くの人に読まれるニュース系のWebメディアが次々生まれる一方、小さいながらも濃いコミュニティに刺さるようなノンフィクション系のリトルプレスも目立つ。

雑誌『murren』のwebサイト

私が好きなところでは、エッジの利いたテーマについて取材対象から直接見聞きしたことを深く描写していく『SPECTATOR』という雑誌は2万~3万部売れているというし、山と溪谷社の編集者だった若菜晃子さんがつくる『murren』も手に取る知り合いが多い。

他方、『G2』は実売3000部ということだから、ビジネスモデルとして成立していないことは明らかだ。青木は「事実をしっかり調べて書くためのコストはものすごくかかる」と言う。フィクションとは違い、事実の検証を地道に重ねていくことにかかる時間や費用は、Web編集者の私からすると想像するのがなかなか難しい。青木によれば、原稿料や取材費、出張費などをすべて足した『G2』1号当たりの編集経費はおよそ600万~700万円。これに印刷代や紙代などの製作コストがさらに上乗せされる。

前号までの『G2』は1冊1200円(今号は900円だが)だから、仮に6000部売れたとしても720万円。「採算度外視すぎるのではないか」と思っていたら、「雑誌単体ではなく、雑誌から生まれた作品を単行本化することで売り上げをはかる」というモデルを想定しているようだ。ともあれ、多大な手間暇とコストをかけているが、その割に雑誌は売れていない。(出版社が出す)ノンフィクション(誌)の限界が少し見えた気がする。

2009年9月5日。黒と金の2色を表紙に使った『G2』創刊号が発売された日。発行部数は3万部。紀伊國屋書店新宿本店が大量に平積みし、紀伊國屋ホールでは創刊イベントも開催、新聞広告も大きく打った。だが数字は伸びず、3ヵ月後に出た第2号は1万5000部。雑誌単体では一貫して黒字になることはなかった。掲載記事からの単行本化としては、古市憲寿著『絶望の国の幸福な若者たち』や『山中伸弥先生に、人生とiPS細胞について聞いてみた』(山中伸弥・緑慎也共著)などが話題になり、ベストセラーになっている。安田浩一著『ネットと愛国』のように、時代を鋭く切り取ったと評価される本も『G2』から生まれた。

それにしても「雑誌から単行本につなげる」という考え方はわかるが、実際にベストセラーとなった単行本は一部だ。やはりビジネスモデルとしては厳しいと言えるだろう。

先述の『月刊現代』に加え、『論座』(朝日新聞出版)、『諸君!』(文藝春秋)といったノンフィクション・オピニオン誌が相次いで休刊したのが2008~2009年。ノンフィクション誌は出版不況という風当たりの強さ、そしてネットでの情報消費のスピードの早さに打ち勝つことができなかったのかもしれない。

だが、そもそも、ノンフィクション誌は読者が本当に読みたいものを提供できていたのだろうか。

「こんなことを言うと、いろんなところから怒られるかもしれないけどね」と青木は前置きした上で次のように話した。

「ノンフィクションって書き手と編集者の数がすごく少なくて、業界そのものが小さなムラみたいになっている。そんな状況の中で、僕らが『読者の読みたいものをつくる』という視点で考えていたのかと言われればそれはちょっと違うような……いやこれは自戒を込めて言っているのだけど」

いくら書き手が「これを書きたい」「伝えたい」と思っても、読者にとってみれば、それが自分の知りたいことでなければどうでもいいと思うだろう。それは致命的な点でもある。Webメディアやスマートフォン(スマホ)のアプリケーションと違って、紙媒体では「読者ハガキ」ぐらいしかデータを取得する手段がないから、編集者個人の勘とか経験からくる予測のようなものをもとにつくるしかない。

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