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差別がなくならなくても「差別をやめろ」と言い続けることの意味

ニッポン・差別問題の現在地<後編>

2010年末から2011年にかけて、ノンフィクション雑誌「G2」に掲載され、大きな反響を呼んだ傑作ルポルタージュ『ネットと愛国』。出版から3年が経ち、世間や当局の目が厳しくなり、過激な言動こそ鳴りを潜めつつあるものの、いまなお一部の言論や文化は着実に市民権を得つつある。そんな「ヘイト」の現在地を安田浩一氏が著す。(前編はこちら http://gendai.ismedia.jp/articles/-/43336

ヘイトスピーチ包囲網

私が差別デモの主役たる在特会をテーマとしたノンフィクション『ネットと愛国』を出したのは2012年のことだ。あれから状況は少しずつ変化してきた。

2013年から14年にかけては差別デモも大きな盛り上がりを見せ、それまで関心を寄せることのなかったメディアが、これらを大きく報じるようになった。2013年末には「ヘイトスピーチ」なる言葉が、その年の流行語大賞のトップテンにも選ばれている。

だが一方で、差別デモやヘイトスピーチに対する社会の包囲網も徐々に狭まってきた。

 

2009年に在特会のメンバーらが京都朝鮮第一初級学校(現・京都朝鮮初級学校)に押しかけた「襲撃事件」の民事裁判では、2014年12月、最高裁が同会の上告を棄却し、約1200万円の高額賠償と街宣差し止めを命じた大阪高裁判決が確定した。

少し遡った同年8月には、国連人種差別撤廃委員会が在特会の活動などを「人種・民族差別」と断じたうえで、日本政府に対して法整備を求める勧告を出している。

私はスイス・ジュネーブで開催された同委員会の日本審査を取材したが、ヘイトスピーチは絶対に許されないと考える国際社会と、消極姿勢を変えない日本政府代表団との温度差が強く印象に残った。

「なぜヘイトスピーチを放置しているのか」「警察はなぜ、差別集団を守っているのか」

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各国委員から相次ぐ疑問に、わが政府代表団は「日本には深刻な差別は存在しない」「啓発、啓蒙をしている」と答えるのが精いっぱいで、いわば“フルボッコ”状態から逃れることはできず、結局、早急な対策を求める勧告が出されるに至ったのである。

これを受ける形で、国内でもヘイトスピーチ対策を早急に整備するよう国に求める意見書が、多くの自治体で採決されるようになった。先駆けとなったのは国立市(東京都)である。

同市議会は2014年9月19日、社会的マイノリティへの差別を禁止する新たな法整備を求める意見書を賛成多数で採択し、衆議院議長、参議院議長、内閣総理大臣、法務大臣宛てに届けた。提案者のひとりである上村和子市議は次のように話す。

「マイノリティが安心して暮らせるような社会を作ることも行政の大事な役割だと思うんです。その使命を放棄したくなかった」

ニュースや新聞記事でヘイトスピーチの現状を知り、それがきっかけで差別問題に関する学習会などに足を運んだ。そこで京都朝鮮学校襲撃事件の映像や差別デモの様子を映した動画を目にした。

「一部の人間による、特別な事件なのだと考えることができませんでした。これは社会の問題であり、また地域の問題だと思ったんです」

素案をつくり、自民党から共産党まで、すべての同僚議員を説得してまわった。反対する者はいなかった。「みんな、わかってくれるんだ」と安心した。