電源構成案が決まる もう一つの日本の危機
古賀茂明「改革はするが戦争はしない」フォーラム4 Vol.003より

エネルギー分野で日本が完全に世界から取り残されることが決まろうとしている
何とか取り繕おうとする安倍政権―「ベースロード電源」の嘘

経済産業省は(4月)28日、2030年時点の望ましい電源構成(ベストミックス)案を公表した。 28日に開いた「総合資源エネルギー調査会」(経産相の諮問機関)の専門委員会で大筋了承されたが、さらに与党内の協議や国民の意見を聞いた上で6月までに決定される。最終的には経産省案から大きく変わらない見通しだ。

しかし、実は、この案にはほとんど根拠がない。単に原発を最大限維持したいという原子力ムラに迎合する経産省と安倍総理が、国民の反発をギリギリのところでかわすための数字をまとめたというのが実態だからだ。

まず、議論の前提として「ベースロード電源」という考え方を中心に据えている。「ベースロード電源」というのは、季節、天候、昼夜を問わず、一定量の電力を安定的に低コストで供給できる電源のことだとされる。そういう定義を聞けば、誰でも、それは、極めて大事な電源だと思うだろう。それが、経産省の思惑なのだ。

そして、次にこう展開する。欧州などでは、このベースロード電源が概ね6割程度あるので、日本も6割程度を目指すべきだ、と。

うん、なるほどという感じがするだろう。その議論の際、ベースロード電源に含まれる電源ごとにどの程度の割合にするのかということは絶対に議論しないで進める。とにかく6割という数字を先に決めてしまうのだ。もちろん、これに含まれることになる原発の割合は、一切議論しない。マスコミも、そうした議論をそのまま垂れ流しの報道をしてきた。
そして、最後に、一気に、自然エネルギーも含めた各電源構成をセットで決めるのだが、そこにはいかにも恣意的な操作が満載だ。まず、第一にベースロード電源の中には、当初からLNG火力が入らない。東日本大震災の後、実際には、一部でLNG火力はベースロード電源として稼働している。しかし、これを入れてしまうと原発比率を低くしてもベースロード電源は容易に6割になってしまい、原発の比率を高くする必要がなくなってしまうため、石炭とそれほど発電単価が違わないのに、これを完全に外したのだ。

13年度でLNGの割合は46%。もちろん、温暖化問題などを考えれば、そのままでいいはずはないが、出て来た案ではLNGの割合はまだ26%と非常に高い。これを高くしてもベースロード電源の割合は高まらないので、原子力ムラとしては問題ない。また、温暖化対策という意味では、大幅な削減が望ましい石炭火力は、13年度30%から30年で26%に下げた。水力は9%前後、地熱1%、バイオマス4%だから、地熱・水力・石炭・バイオで約4割。6割までの間に2割隙間があるから、それが原発の取り分になるという計算になる。約2割と言えば、22%くらいまで許容範囲だ。その意味は何なのか。

元々、原発比率は、東日本大震災前でも28.6%だった。その後福島原発のみならず、老朽化した原発5機の廃炉が決まり、残った原発を、原則40年で廃炉して行くと、30年には、原発比率は概ね15%まで落ちるはずだ。それを20%以上に高めるということは、40年廃炉を止めて、多くの原発を例外規定である20年延長をフルに使って寿命を延ばすか、新たに原発を建て替えないし、新設するしかない。現実には、コスト面の制約もあり、全ての原発の寿命延長は難しい。だから、更新・新設が視野に入るのだ。
それこそが、今回の電源構成比案のポイントである。

結果的には、原発比率を20~22%、自然エネルギーを22~24%としたが、これは、公約違反と言われないように、見かけ上は自然エネルギーを優先したように見せたということだろう。

ちなみに、実は、このベースロード電源という考え方が全くの時代遅れのものとなっている。欧米では確かに6割程度なのだが、その比率はどんどん下がっており、2030年頃には50%を切るのが常識だ。

しかも、EU諸国では、自然エネルギーを全量使うことが原則となっていて、その変動を石炭を含む火力や水力などで調整しているのである。温暖化対策のためにも自然エネルギーを増やす必要があるから、自然エネルギーはとにかく全部使うという方針をとっているのだが、そうなると、原発のように出力調整をしにくい電源は、むしろお荷物になって来る。つまり、原発はあくまでも自然エネルギーを増やす間の補完役に過ぎないという状況になっているのだ。

そうした世界の流れから見て、いかに日本の議論が周回遅れになっているのか。よく理解しなければならない。

自然エネルギーの比率は世界一低いまま~さらに欧米に遅れる日本

次に指摘しなければならないのが、自然エネルギー比率の低さだ。

原子力ムラは、自然エネルギーは高いとか不安定だという理由で、2030年22%でも大変野心的な案だという。しかし、これは、世界の状況を少し見るだけでいかにおかしなことかがわかる。

2014年上半期の各国の総発電量に占める自然エネルギーによる発電量の割合は、ドイツ30%超、英国18%超、スペイン50%超、イタリア40%、フランス20%、デンマーク風力だけで41%、米国14%超となっている。不安定で大量には導入できないと電力会社や経産省が主張している太陽光と風力だけでみても、2013年時点で主要な欧州諸国は軒並み10%超で、スペイン、ポルトガルは20%、デンマークは30%を超えていた。

ちなみに、ドイツは、自然エネルギーの比率を2030年に50%、40年65%、50年には80%にする計画を持っている。英国でさえ、2020年の再生可能エネルギーによる発電量の目標割合は31%だ。

ドイツでは、陸上・洋上風力発電の容量だけで、2014年末に38.23GW(3823万kW)、つまり、原発38基分に達している。

さらに、先進国だけではなく、中国も自然エネルギーに舵を切っている。2014年に中国で新たに導入された水力、風力および太陽光発電の累積容量は52GW(5,200万kW)にものぼるとされる(自然エネルギー財団コラム ジョン・A・マシューズ オーストラリア・マッコーリー大学経営大学院教授)。原発52基分だ。風力だけでも1年で1,400万kw、原発14基分建設されたというから、本当に驚きだ。もちろん、自然エネルギー電源の建設のスピードは原発建設スピードの何倍も速い。

こうした世界の流れを見て、経産省の電源構成案を見ると、ほとんど「信じられない」という思いだ。

天候により発電量が変わるからという理由で、太陽光と風力を合計でわずか9%弱!にとどめるという。地熱や水力、バイオマスで最大15%程度を確保するものの、13年度時点で約11%の自然エネルギーの割合を30年まで、25年かけて、やっと2割程度まで引き上げる。それでも、欧州の数年前の状況でしかない。しかも、中国よりもはるかに遅れた計画を平気で出してくる。それで、何もおかしいと感じない、その神経が信じられないのだ。・・・(以下略)

古賀茂明「改革はするが戦争はしない」フォーラム4(2015年5月8日配信)より

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