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[サッカー]
田崎健太「MLSはなぜ躍進したのか」

~中村武彦Vol.6~

2015年05月12日(火) スポーツコミュニケーションズ

 2005年2月14日、中村武彦は8カ月のインターンを経て、メジャーリーグサッカー(MLS)に採用された。
 日本人はもちろん、アジア人として初めてのことである。

長期的視野に立ったリーグ経営

 MLSでは国際部に配属された。前回の原稿で触れたように、MLSは02年にサッカー専門のマーケティング会社「サッカー・ユナイテッド・マーケティング」(SUM)を立ち上げている。中村の名刺の表には〈MLS国際部〉、裏返せば〈SUM国際部〉と書かれていた。2つの会社は表裏一体の関係にあった。

 中村はこのSUMがMLSの発展の鍵だったと考えている。
「SUMは国際サッカー連盟(FIFA)からワールドカップのアメリカ国内向けの放映権を購入したほか、メキシコ代表のアメリカツアーなどサッカーに関するさまざまな権利を獲得しました。例えば、お客さまがアメリカ在住のヒスパニック系に向けて、メキシコ代表のツアーに看板を出したいと提案があったとします。すると、このツアーを入れた広告パッケージの中にMLSを入れる。結果として、MLSに資金が流れることになります」

 MLSは立ち上げ時期のカルロス・バルデラマ(当時コロンビア代表)以降、07年にデビッド・ベッカム(当時イングランド代表)がロサンゼルス・ギャラクシーに加入するまで、ローター・マテウス(元ドイツ代表)、フリスト・ストイチコフ(元ブルガリア代表)、ユーリ・ジョルカエフ(元フランス代表)などの例外を除けば、世界的に知られた選手を獲得していない。

 95年のボスマン裁定以降、サッカー選手の年俸は高騰していた。そんな中、MLSは全選手の総年俸の上限、そして個人選手の年俸の上限を定めた、サラリーキャップ制を導入していたこともあり、そうした争いに加わることはなかったのだ。

 これはリーグ経営において長期計画を重視しているからだと中村は解説する。
「スポーツビジネスのメソッドの基本は、勝敗を売らないこと。MLSでは総収入に対して適正な額しか選手に使わない。もちろん、勝つことは大切です。しかし、リーグ及びクラブの経営が安定するまで、勝利は優先順位の最上位ではない。勝ち負けはコントロールできませんから。ある時点まではリーグの基盤作りに集中すべきだと割り切っていたのです。一方、選手は現役生活が限られており“今”が重要。リーグやクラブの中長期展望とのバランスは永遠の課題です」

 中村はこう続ける。
「また、MLS躍進のきっかけのひとつはクラブにスタジアムを所有することを義務づけたこと。そして、きちんとビジネスのできるスタッフを雇ったことです。例えば年俸1億円の選手を獲得したとします。しかし、その選手が1億円分の効果を生み出したかどうかを明確に判定しずらい。逆に年収1000万円で、年収以上の営業成績を上げられる人間を10人雇ったほうが、その効果は明らかで経営の安定に繋がるという考えです。もちろん、クラブ経営はそれほど簡単な話ではありませんが、スタッフを重視するという発想は欧州などのクラブにはありませんでした。それらがクラブ側の経営努力だとすれば、リーグ側は他のサッカーの権利と一緒にパッケージしてリーグ全体を売り込むこと」

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