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V字回復は本物かパナソニック・津賀一宏社長を直撃インタビュー
日曜日に兵庫県の自宅を訪ねると、丁寧に記者と向き合いインタビューに応じた

何がお客様にとって大切か

「大丈夫です。あなたがおっしゃるような心配を僕はしていません」

パナソニック社長の津賀一宏(58歳)は、本誌記者に力強く言った。今後、コンシューマー(個人消費者)向けの事業がどんどん減っていくと、パナソニックが消費者にとって馴染みの薄い会社になるのではないか、という心配をぶつけたときの反応だ。

「現在、コンシューマー向け事業の全体の売り上げに占める比率は約24%ですが、それは今後もほとんど変わりません。だいたい20~25%を想定していますから」

—津賀さんの改革の柱はBtoB(企業間の取引)だと認識していますが、そうなると一般消費者が持つパナソニックの企業イメージも変わってくるのでは?

「それはない。たとえば住宅事業ですが、創業者(松下幸之助)みずから『ウチは家もやるんや』と言って松下電工で住宅事業を始めたという歴史がある。自動車部品も同じです。バッテリー関連の部品供給など、トヨタさんとの付き合いは60年にも及ぶ。いずれも、ウチがずっとやってきたことなんです」

津賀は社長就任直前にも、本誌に、

「いずれの事業にしても大事なのは『お客様価値』を明確にすること。何がお客様にとって大事な価値なのか、その判断を私がやっていかないとならない」

と語っていた。その姿勢はいまも変わらず持っている、と強調する。

この日は日曜日で、外出先から国産車で帰宅した津賀は、デニムのシャツに綿パンというカジュアルな出で立ち。本誌記者が声をかけると堂々と取材に応じたが、ある書籍の話題を出すと、表情が険しくなった。

その書籍とは『ドキュメントパナソニック人事抗争史』(講談社刊)。同書を掲げ、「お読みになりましたか?」と問いかけると、

「ええ、読みました」

と即答した。

—率直なご感想をお聞かせ願えますか?

「タイトルの『人事抗争史』というのは読者の好奇心を煽るためにつけたのでしょう。僕自身は、ハッキリ言うと、不愉快です。僕のことは良く書いてあるんですが、ウチにはないですから」

—ない、と言われますと?

「(本のタイトルを指差しながら)こういうこと(人事抗争)は、ウチの会社にはない。いまは断じてありません」

—いまは、ということは、以前はあったということですか?

「それは知らない。僕にはわかりません。本に出てくるのは以前の話が多く、僕とは世代も違いますから」

'15年3月期の決算で増収増益を発表し、パナソニックは「V字回復」を強く印象づける。市場には「ツガノミクス」なるフレーズで津賀の手腕を評価する投資家もいる。

だが一方で「やっとマトモな会社に戻った」と言うこともできる。それほど、パナソニックの低迷は長く続いた。

過去20年にわたる経営不振の原因は、ひとえに「人事の乱れ」にあったと指摘しているのが、前掲書『パナソニック人事抗争史』だ。

4代目社長の谷井昭雄と松下幸之助の女婿であった正治(当時は会長)の激しい対立、それに端を発する人事の歪みと空転、能力のある人間の左遷と裏切り—。

それらを、元役員たちの実名証言で明らかにした同書は、発売から3週間で4刷6万部となっている。これだけ話題になれば、社長である津賀が目を通しているのも不思議ではない。

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