『マーケティングの嘘』大票田を個で理解する

レビュアー:吉村 博光

副題にある「団塊シニアと子育てママ」は、ご存知の通り、消費の大票田である。その実態を見誤ってしまったら、ビジネスの成功などおぼつかない。定量的マーケティングで一般的にいわれている「若い母親(ヤンママ)の料理は手抜きだらけ」とか、「シニア層の散歩は健康目的」という情報を鵜呑みにしていないだろうか。本書は、その嘘を明らかにしながら、たった一人のサンプル調査で絶大な効果をあげる、画期的なマーケティング手法について詳述した本だ。

最初の章ではまず、ヤンママに関する誤解を解いてくれる。「まごわやさしい」という標語をご存知だろうか。まめ、ごま、わかめなどの頭文字をとってつなげたもので、これらを食生活に取り入れる大切さを示したキャッチフレーズだ。このうち調理時間がかかって面倒なイメージのある煮豆について、今の若い母親たちが厭わず料理しているときいて驚く人は多いだろう。なんでも、煮豆は「お鍋に入れてタイマーをセットすれば、勝手にできる」そうで、簡便な手料理として食卓にのぼっているのである。

一般的にヤンママが作る食事は、インスタント食品か、買ってきた惣菜ばかりと思われているかもしれない。でも実は、一昔前のママよりも今のママのほうが、「まごわやさしい」を実践できているのかもしれない。確かに定量的マーケティングで導かれるように「時短」「簡便」は子育てのキーワードに違いないが、だからといって「料理が手抜きだらけ」ということにはならない。ヤンママたちは、料理に対して非常に意欲的なのだ。本書は、定量調査に基づく主流のマーケティング手法へのアンチテーゼとして書かれている。第一章に次の記述がある。

消費者に対する定量調査によって市場のニーズをつかみ、商品を開発し、広告やプロモーション活動を行ない、販売するというのが、今までの主流のマーケティングの考え方であり、手法である。しかし、サンプルの数だけ増やしたアンケートをいくら重ねたところで、「本当の消費者像」は見えてこない。従って市場も見えてこない。出てくるのは、本当の消費者像とはかけ離れた「幻想の消費者像」だけだ。

そう考えれば、「クックパッド」や「つくりおき」のレシピ集が売れたのも大いに頷ける。思えば昨年、第1回料理レシピ本大賞を受賞したのも『常備菜』というタイトルだった。ヤンママたちは、作られたものを買うのではなく、時短を追求しながら自分で作ったものを食べさせているのである。そこには、意地らしいまでの母心が見え隠れする。先ごろ、おにぎりならぬ「おにぎらず」の本がヒットしたが、時短の代表選手である「おにぎり」のレシピ集にも、今後さらに大きなブレイクの目があるのかもしれない。