『気候カジノ』気候変動を経済学から考える

レビュアー:佐藤 瑛人

地球温暖化あるいは気候変動。日々ニュースを騒がせるトピックであり、関連する書籍もたくさん出版されているにも関わらず、これほど良書に巡り会うのが難しい分野も珍しい。

それは気候変動について書かれた本の多くが、仮説検証を繰り返して論理の精度を高めるというよりも、最初から「温暖化で人類は滅亡する」あるいは「温暖化は嘘っぱちだ」というどちらかの結論を最初に決めつけた上で、結論に合致する証拠だけを並べた政治的な本であることに起因する。

本書によれば、アメリカで2010年に行われた調査において「地球が温暖化しているという確かな証拠がある」と回答した人の割合は、高卒以下の人で61%、大卒以上で60%と、教育レベルによる差はない。ところが、同じ質問に対してリベラル派の民主党支持者では89%が「地球が温暖化している」と回答したところ、保守派の共和党支持者ではその割合は33%だったという。これをみても、温暖化=気候変動は科学の問題というよりも政治の問題であることが浮き彫りになる。

これが仮に素粒子物理学の超ひも理論であれば、ほとんどの人にとってそれは日常生活とは関係なく、理論が正しいのかどうかでポジションをとることもできないが、気候変動については究極的には「暑い寒い」「地球の将来が心配だ」といったレベルで私たちの生活に密接に関連しているため、私たちの観点は主観的になりがちだ。

本書もその呪縛からは決して自由ではないが、経済学者である著者は温暖化論が100%正しいという確信に達することは不可能であることを認めた上で、「100%の確証を得てからこの問題を食い止めようとしても、そのときはもう手遅れである」と呼びかける。

気候変動の主な要因は二酸化炭素に代表される温室効果ガスの増加だが、この排出量は経済が成長しなければ増加することはない。世界の平均気温の上昇幅を予測するモデルは多数あり、中位推計では2100年までに産業化以前と比較して3.5℃の上昇が見込まれているが、その背後には世界が21世紀を通じてこれまでと同様の経済成長を遂げ続けるという前提が存在する。その結果、21世紀末には世界全体の一人当たりGDPが13万ドルまで伸びると予測されているが、これは2015年の日本における一人当たり名目GDPの4倍だ。

これに対し、もし今日からまったく経済が成長しなくなり、二酸化炭素排出量も今日の水準がキープされ続けた場合に、同じ21世紀末に予想される平均気温上昇幅は2.5℃にとどまる。しかしその代償は大きく、アフリカ、アジア、中東などにおいて数十億人規模の人々がこれからも病と貧困の中に取り残されることを意味している。