『老人たちの裏社会』生き地獄化する余生

レビュアー:栗下 直也

65歳以上の高齢者の万引きの増加が話題になったのは20年ほど前だったか。当時は全体に占める割合が1割に達したことで注目を集めていた。

本書によると警察庁発表の犯罪統計では高齢者による万引きは2011年には未成年者の検挙数を追い抜き、直近の公表値である13年は32.7%を占め過去最高を記録したという。万引き犯の3人にひとりが65歳以上という状況だ。人口全体が高齢化していることを踏まえても異常な増え方だ

万引きだけではない。ストーカーも60代以上の13年度の認知件数が10年前の約4倍に増え、他の世代の1.7-2.6倍に比べて高い増加率を示す。驚くべきなのは暴行の検挙数。2013年には94年比45倍超の3048人に急増している。原因も「激情・憤怒」が60%以上を占め、次点の「飲酒による酩酊」の14%を大きく引き離す。酔っぱらって、「何だ、この野郎!」と酒場で暴れる老人を想像しがちだが、本当に凶暴なのは素面なのに公共交通機関などで些細なことにぶち切れまくる老人が大多数なのだ。

著者は投げかける。

ほんの少し前まで、老人は-中略-社会的弱者として捉えられていた。ところが、今や街では万引きをしまくり、激高しては暴力に訴え、勘違いを募らせてはシニアストーカーに転じ、「死ぬまでセックス」とばかりに色欲にハマるなど、「若者のお手本となる先人」どころか、老害を撒き散らすだけの暴走ぶりが目立つ

彼らに何が起きているのか。統計データをなぞりながら、万引き、暴行、ストーカー、売春などに走る高齢者を取材し、本書では異様な実態を明らかにする。

「唯一の憂さ晴らし」と5年前に突如目覚めた万引きをやめられない86歳の女性。毎日のように69歳の女性に自分が詠んだ句を添えて郵便ポストに手紙を差し入れる80歳男性。68歳の女性は色目をつかって、孤独な男性たちの預貯金から3000万円以上を搾り取る。

寂しいから、社会から孤立してしまっているから。犯罪白書は老人の犯罪を語る。確かに孤立死も急増している。80歳以上の自殺者数は年2500人を上回る。なぜ寂しいのか。なぜ孤立してしまうのか。簡単には死ねない時代になったからである。

これまでは「やり残したことはないか」「命を燃焼し尽くして人生を生き切ったか」などと追及、検証する間もなく先に寿命が来てしまっていた。余計なことを考える間もなく、生活に追われ、生き続けるのに必死なうちに息絶えるのが当たり前だったのだ。

死ぬよりも、上手に老いることの方が難しい時代になってしまった。

最終章の章題は「生き地獄化する余生」である。悟りの境地に達した老人は漫画の世界だけなのだろうか。悶々としてしまうから、「生涯現役」と悪びれもせずにストーカーに走る。自らが80歳を超えながら70歳の妻をDVする。「女として輝こう」の謳い文句に釣られ、62歳でホテヘル嬢になる。

タイトルに「裏社会」とあるが、残念ながら、もはや「裏」とは言えない現象になってきている。本書に広がる世界は、我々全員がこれから対峙しなければならない社会そのものである。

『老人たちの裏社会

作者:新郷 由起
出版社:宝島社

内容紹介
「長生き」は本当に万人に幸せなのだろうか。不良化する高齢者が急増。何が彼らをそうさせるのか。万引き、暴行、ストーカー、売春…他人事ではない長寿社会のリアル。

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