『6度目の大絶滅』で人類も絶滅するのか?

レビュアー:村上 浩

バブルの渦中にいると、自分を取り巻くものがバブルであると理解することは難しい。ハジけて初めて、それはバブルとして広く知覚される。本当の悲劇は、取り返しの付かない段階にならなければ気づくことができないからこそ、悲劇となりうるのかもしれない。それでも、リーマン・ショックが起こる前からサブプライムローンの危険性にいち早く気づいて大儲けした人々がいたように、人類を襲う現在進行形の悲劇を察知した科学者達が声をあげはじめた。その悲劇というのが本書のテーマである、生物の大絶滅だ。

いまこの文章を読んでいる最中にも、アマゾンの熱帯雨林、アンデスの高地など世界のいたるところで、多くの生物種が絶滅している。ただし、ダーウィンの自然淘汰説からも分かるように、絶滅自体は珍しいものでも、悪いものでもない。問題となるのは、絶滅のスピードだ。平穏な時代の絶滅率を「背景絶滅率」というが、現在もっとも絶滅の危機に瀕している両生類の絶滅率は背景絶滅率のなんと45,000倍にも及ぶという。そして、哺乳類の1/4、爬虫類の1/5、サメやエイの1/3もこの世から消えようとしている。著者は、見る目を鍛えれば「あなたも自分の裏庭で現在起きている絶滅の釣行を見て取ることができるだろう」という。

大絶滅は、200万年以内に75%以上の種が絶滅するものと定義されることもあり、長い地球の歴史でも5回しか起きてはいない。最大の絶滅は2億5千万年前に起ったペルム紀末の大絶滅であり、90%以上の種が絶滅したと考えられている。現在わたしたちが経験している6度目の大絶滅がどれほどの規模になるかは知る由もないが、今度の絶滅にはこれまでの絶滅とは際立って異なる特徴がある。それは、この6度目の大絶滅が、たかだか20万年前に誕生したばかりの新参者の種によって引き起こされているということだ。そう、この大絶滅はわたしたち人類によってもたらされている。

『ニューヨーカー』誌の記者である著者は、20年間にわたって大量絶滅に関する科学的証拠を集め続けてきたという。本書にも、パナマのカエル、スコットランドのフデイシの化石、グレートバリアリーフの珊瑚など著者自らが足を運んで目撃した絶滅現場のレポートが数多く掲載されている。その描写はあまりにも巧みで、自らが世界を旅しながら地球の危機を目撃しているようにも感じられる。このような絶滅の現状に加えて、著者は科学者達が絶滅をどのように議論してきたか、絶滅がどのように起こるのかを教えてくれる。本書を読めば、そもそも絶滅とはどのような現象なのか、人類はどのように生物たちを絶滅に追いやっているのかがより明確に見えてくるはずだ。

種の絶滅という概念は意外なほどに新しく、その概念の誕生は18世紀フランスで活躍した博物学者ジョルジ・キュヴュエの登場を待たなければならない。啓蒙時代には、どのような種も途切れることのない「生命の連鎖」の一部であり、特定の種がその存在を永久に消してしまうことなどありえないと考えられていたのだ。ダーウィン以前の時代だったのだから無理もない。そんな時代において、キュヴィエがかき集めた絶滅の証拠と理論は衝撃的であり、欧州だけでなくアメリカでも一大センセーションを巻き起こす。キュヴィエの提唱によって広まった絶滅という概念は、その発生メカニズムを巡って、斉一説と天変地異説との一大論争を巻き起こしていく。「絶滅学」とでも呼びたくなる一連の議論と学問の発展は何とも刺激的だ。